(令和7年9月4日 知財高裁令和7年(行ケ)第10024号 「ダイヤモンド動き商標」事件)

事案の概要
原告(審判請求人・出願人)は、円形状の多面体にカットされた宝石(ダイヤモンド石)の色彩が無色でクリアな輝きから、青色蛍光の輝きに変化した様子(背景色も青色に変化している。)を表した「動き商標」(右掲図参照一部略)について、指定役務を35類「宝飾品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」として登録出願をしたが、拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2024-2424)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し審決の取消しを求めて提訴した事案である。審決の拒絶理由では、本願商標は特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないとともに、一般的に使用されるものであって、役務の出所を識別する標識として認識させるとはいえず、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る役務であるかを認識することができない商標というのが相当で、商標法3条1項6号に該当するとした。
判 旨
本願商標に係るダイヤモンド石の形状(円形状の多面体 のカットであり、「ラウンドブリリアンカット」にも近似した、「ラウンドカット」と称されるカット手法で加工された形状や、「輝く」ないし「クリアな輝き」という特徴、青色蛍光の色彩及び色彩が変化した様子は、蛍光性など色彩や輝きが変化する特性を持つダイヤモンドの特徴として広く知られたものであり、当該色彩の変化を示すことは、その魅力を紹介する動画、画像において広く採択、採用されている一般的な演出手法であるといえる。そうすると、本願商標は、これをその指定役務に使用しても、その取引者、需要者をして、提供する役務に係る取扱商品の品質、特徴、特性や優位性などを表し、当該役務に関心を持たせるための宣伝広告を表示したものと理解するにとどまるものであって、自他役務の識別標識と認識し得るとは認められない。よって、本願商標は、自他役務の識別力を欠くため、何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標であり、商標法3条1項6号に該当する。
コメント
本件事案は、「動き商標」について、識別力の有無が争われて、これが否定されて審決が維持されたものである。「動き商標」は、図形等が時間によって変化して見える商標(例えば、テレビやコンピューター画面等に映し出される動く平面商標や、動く立体商標等)で、文字、図形、記号、立体的形状又は色彩等に構成され、それが動く点に特徴を有する。願書には、「動き商標」と記載した上で、その商標の時間の経過に伴う変化の状態が特定されるように表示した1又は異なる2以上の図又は写真によりしなければならない。「動き商標」については、願書に詳細な説明の記載を要する(5条4項)。
本件願書には、「ダイヤモンド石が、図1から図7にかけてクリアな輝きから徐々にベリーストロングの青色蛍光の輝きに変遷する様子を表している。この動き商標は、全体として3秒間である。」とある。本判決では、業界の取引の実情から、ダイヤモンドの特徴として広く知られたものであり、当該色彩の変化を示すことは、その魅力を紹介する動画、画像において広く採択、採用されている一般的な演出手法であるとされ、識別力が否定された。平成26年の改正(法律36号)で保護が開始された「動き商標」に係る初めての裁判例と思われる。
