(令和7年10月16日 知財高裁令和7年(行ケ)第10044号 「KENTAUROS」事件)

事案の概要
被告(審判被請求人)が有する本件商標(登録第6643846号右掲図参照令和4年6月23日登録出願、同年11月11日登録査定)、21類「台所用品(「ガス湯沸かし 器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)、ガラス基礎製品(建築用のものを除く。)、等」を指定商品とした登録に対して、原告(審判請求人)は、商標法(令和5年法律第51号による改正前のもの)4条1項8号、15号及び19号を無効事由として登録無効審判(2024-890023)の請求をした処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。
判 旨
認定事実によると、ケンタウロスクラブは、昭和39年の結成以後、本件漫画や本件アニメーション映画がきっかけとなって、昭和50年代後半から、オートバイの愛好者を中心として知られていたということができる。そして、ケンタウロスクラブのメンバーが、引用商標と同一視し得る標章が付されたジャケット等を着用し、ツーリングなどの活動を行っていたことからすると、引用商標も、ケンタウロスクラブないしケンタウロス社を表すものとして、オートバイ愛好家を中心に、ケンタウロスクラブ自体と同程度に知られていたと推認することができる。しかし、・・・ケンタウロスクラブをモデルとする本件漫画、本件アニメー ション映画及び能舞台公演も、その発行部数や観客数等は不明であり、本件商標の出願及び登録査定がされた令和4年6月ないし11月においては、本件漫画の刊行や本件アニメーション映画の公開から既に40年前後が経過している。加えて、前記認定のケンタウロスクラブないしAに関する雑誌やテレビなどのメディアへの登場回数も、昭和59年頃から令和5年頃までの40年近くの間に散発的にあったといえる にすぎず、その40年という期間の長さを考えれば、全登場回数も決して多数といえるものではない。・・・本件商標の出願及び登録査定がされた令和4年6月ないし11月の時点では、ケンタウロスクラブや引用商標の認知度は下がっており、知る人ぞ知るといった伝説的な存在として、限定された範囲内でのみ認識されていたと認めるのが相当である。そうすると、引用商標は、ケンタウロスクラブを表示するものとして、あるいは、ケンタウロスクラブないしケンタウロス社の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、周知であったとまでいうことはできない。
本件商標と引用商標とは、その外観において酷似しているものの、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標の指定商品(21類「台所用品・・・」)に関し、我が国の取引者及び需要者の間に広く知られているものとは認められない。そして、本件商標の指定商品と引用商標の使用商品(Tシャツ、トートバック、ジーンズなど)は、・・・性質、用途又は目的において類似しているとはいえず、その関連性はさほど高くない。そうすると、本件商標が上記指定商品に使用された場合、取引者及び需要者をして引用商標を連想又は想起させることは考えにくく、本件商標が、「他人」であるケンタウロスクラブないしケンタウロス社の業務に係る商品であると誤認させ、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるとはいえない。
コメント
本件事案は、未登録商標を引用した無効審判不成立審決の審決取消訴訟で、引用商標の周知性が必須で、それが成功せずして、不成立審決が維持された。本判決は、4条1項8号についても、周知性否定の中で判断しているが、妥当ではない。8号の「著名な略称」とは、「略称が本人を指し示すものとして受け入れられているか否か」を基準とされる(「国際自由学園事件」平成17年7年22日 最高裁平成16年(行ヒ)第343号)。15号についても、周知乃至著名性が求められる。
