2025-11-04

工藤莞司の注目裁判:識別力なしとして一部取り消された異議決定が維持された事例

(令和7年9月11日 知財高裁令和7年(行ケ)第10001号 「モルック」異議決定取消請求事件)

事案の概要
 原告は、「モルック」の標準文字からなる本件商標を登録出願し設定登録(登録第6720210号)を受けた処、登録異議申立てがなされ、特許庁は本件商標の指定商品及び指定役務中、28類『ゲーム用具及びおもちゃ、テレビゲーム、体操用具及び運動用具』及び41類『全指定役務』についての商標登録を取り消しその余の指定商品についての商標登録を維持する旨の異議決定をしたため、知財高裁に対し、本件決定のうち商標登録を取り消した部分の取消しを求めて提訴した事案である。決定理由は、本件商標をその指定商品及び指定役務中、「クリスマスツリー用装飾品」を除くものに使用しても、取引者、需要者は、フィンランド発祥の投てき競技の名称を認識し、その商品が当該「モルック」という投てき競技に使用する商品又は「モルック」という投てき競技を内容とする商品及び 「モルック」という投てき競技に関する又は内容とする役務であると理解するにとどまるとしたもので、争点は、商標法3条1項3号及び同条2項の各該当性である。

判 旨
(3条1項3号)本件登録査定日までに公表されていたインターネット上の辞典・用語解説や、スポーツ事典において、「モルック」がスポーツ競技の一種として掲載、紹介されていることは、本件登録査定日において、我が国において、「モルック」が本件競技の名称として一般に定着していたことを示すものということができる(なお、デジタル大辞泉の記載も、他の辞書類の記載とあいまって、そのころ社会に定着していたことを推認させるものといえる。)。本件商標の取消対象商品役務の需要者は、広く一般消費者であると認められるところ、以上のとおり、「モルック」が本件競技の名称として一 般消費者を含めて相当広く知られ、一般に定着していたことを踏まえると、本件商標「モルック」は、取消対象商品役務のうち指定商品については、本件競技「モルック」に使用する、又はこれを内容とするという商品の特徴を、指定役務については、本件競技「モルック」に関する教育、訓練、娯楽、その技芸や知識の提供、これを内容とするイベント、セミナー、興行等に係る役務という役務の特徴を表示、記述するものであり、取消対象商品役務に使用された場合、その需要者によって、将来を含め、商品又は役務の特徴を表示したものとして一般に認識されるものと認められる。
(3条2項)本件登録査定日において、「モルック」は投てき競技の名称として需要者である一般消費者に相当広く知られ、一般に定着していたと認められる一方、「モルック」の語についての使用をされた結果、原告の出所識別標識であることが、需要者である一般消費者に知られていたとみるべき事情は見当たらない。

コメント
 本件は、異議決定の取消し訴訟で、それも一部取り消しの事例だが、本件商標は3条1項3号に該当し、3条2項適用も否定されたものである。本件商標「モルック」は、その査定時においては、投てき競技の名称として我が国の需要者である一般消費者に相当広く知られ、一般に定着していたと認められるとされたもので、その使用の実情がインターネット上の辞典・用語解説やスポーツ事典のみならず、新聞記事の一覧表としてまとめられて、判決に掲載されている。このような実情の下では、オリジナルは原告の商標であったとしても、3条1項3号該当はや已む得ない。