(令和7年10月30日 知財高裁令和7年(行ケ)第10050号「けやき」事件)
事案の概要
原告(審判請求人・出願人)は、本願商標(下傾図左参照)について、43類「飲食物の提供」を指定役務として登録出願をしたが拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2024-5348)を請求した処、特許庁は不成立をしたため、知財高裁に対して、審決の取消しを求めて提訴した事案である。拒絶理由は商標法4条1項11号で、引用商標は(下掲図右:登録第3074810号)42類「飲食物の提供」である。

判 旨
まず、本願商標の「けやき」との文字部分の出所識別標識としての機能について検討する。本願商標の「けやき」との文字部分は、出所識別標識としての機能を一定程度有しているといえる。一方、証拠(略)によれば、全国の飲食店が掲載されている飲食店検索サイトにおいて、キーワード「けやき」で検索した場合には2648件、キーワード「ケヤキ」で検索した場合には289件 の飲食店が該当すると認められ、全国において、本件樹木の名称を指す店名(「欅」「けや木」「KEYAKI」等)を付した飲食店は相当数存在することが認められる。そうすると、本件樹木の名称は、飲食店の店名に比較的よく使用されるものとして、取引者、需要者に知られていると推認されるから、指定役務「飲食物の提供」との関係において、「けやき」の部分の出所識別標識としての機能は弱いものと言わざるを得ない。そして、本願商標の「けやき」の文字は、線同士が交差する部分の一部に空白を設けた特徴のあるデザインのひらがな3文字で構成されるのに対し、引用商標の要部「KEYAKI」及び「けやきの漢字」部分は、欧文字6文字及び筆書き風の漢字1文字で構成されており、両者は・・・外観において明らかに相違する。したがって、本願商標と引用商標の類否を判断するに当たっては、本願商標の「けやき」以外の構成部分も考慮した上で、本願商標と引用商標が、全体として、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かを検討する必要がある。本願商標の「けやき」部分と、引用商標の「KEYAKI」の部分及び「けやきの漢字」部分の外観が相違することは、上記で述べたとおりである。次に、本願商標の「けやき」の文字部分からは、「ケヤキ」の称呼を生じるのに対し、引用商標の「KEYAKI」の文字部分及び「けやきの漢字」部分からも、「ケヤキ」の称呼を生じ、称呼においては、いずれも同一である。ただし、本願商標の他の構成部分である「牛たん」の文字部分も勘案すれば、本願商標からは、「ケヤキ」のほか、「ギュウタンケヤキ」との称呼も生じ、この称呼については、「ギュウタン」との音の有無によって引用商標とは語感が異なるから、称呼において相違するといえる。さらに、本願商標の「けやき」の部分並びに引用商標の「KEYAKI」の部分及び「けやきの漢字」部分からは、いずれも本件樹木の観念を生じる。ただし、本願商標の他の構成部分「牛たん」の部分も勘案すれば、本件樹木のほか、「牛たんを提供するけやきという名称の飲食店」との観念も生じ、この観念については、引用商標と相違する。以上を踏まえて、本件商標と引用商標の類否について検討するに、本願商標と引用商標は、外観において異なることに加え、本願商標から生じる2つの称呼及び観念のうち一方は、引用商標と異なる。これらを総合すると、取引者、需要者の認識において、時と所を異にして離隔的に観察場合、本願商標と引用商標とは互いに紛れるおそれのある類似の商標であるとは認められない
コメント
本件事案では知財高裁が審決を取り消した事例であるが、本願商標の「けやき」部分の観察の差が結論を左右したものである。審決では、「けやき」は要部と認定したが、判決は、識別力が弱い部分として、全体的観察より、引用商標との「ケヤキ」の称呼類似については否定した。これは指定役務飲食物の提供業界では、「けやき」「欅」等の店名が多数使用されていることを理由としたもので、原告の立証が功を奏したものである。審決は商標の基本的な観察を踏襲したのに対して、判決は個別具体的な取引の実情を汲んだものである。
