2025-12-25

工藤莞司の注目裁判:商標法3条1項3号等の無効理由に該当しないとした審決が支持された事例

(令和7年10月30日 知財高裁令和7年(行ケ)第10038号 「AFURI」事件)

事案の概要
 被告(審判被請求人・商標権者)が有する本件商標「AFURI」(登録第6245408商標)は、33類、21類及び25類に属する商品を指定商品とするものについて、原告(審判請求人)は、指定商品中、33類「清酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、中国酒、薬味酒」について登録無効審判(2023-890066)の請求をした処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対して、審決の取消しを求めて提訴した事案である。取消し事由は商標法3条1項3号、同4条1項16号又は同4条1項7号該当性である。

判 旨
(3条1項3号)後掲証拠によれば、我が国の学校教育において使用されている地図には、原告主張の阿夫利山地域に相当する「大山の近郊地域」の通称を指すものとして、「阿夫利」の語が掲載されているものは存在せず(証拠略)、また、日本全国の地名、山名、河川名等を収録した三省堂コンサイス日本地名辞典や、岩波書店版広辞苑第7版には、「阿夫利」の語について説明する箇所はなく、前者において、単に「あふり-やま」の欄に、「雨降山・阿夫利山=おおやま(神奈川県)」の説明が付されているのみと(証拠略)が認められる。そして、原告が主張する①伊勢原市商工会の会報の名称「あふり」、②校歌における「あふり」、「阿夫利」又は「阿夫利」の文字を含む語の使用、③「阿夫利」という名称を付している行政が管理する建造物の存在、④「阿夫利」の語が付された商品又はサービスの取引の存在については、証拠上、こうした使用例が認められるものの(証拠略)、これらは「大山」ないし「阿夫利神社」にちなんだ名前が用いられていると理解することが可能であり、これをもって「阿夫利」 の語が原告が主張する阿夫利山地域を指すものと一般に認識されていることまでを基礎づけるものとはいえない。以上により、「阿夫利」の語が、原告の主張する阿夫利山地域の名称であるとは認められず、そのローマ字表記である「AFURI」からなる本件商標は、本件商標の登録査定時において、取引者・需要者によって日本酒を含む指定商品に係る商品に使用された場合に、商品の産地、販売地を表示したものと一般に認識されると認めることはできず、その指定商品について商品の産地、販売地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるということはできない。

(4条1項16号)本件商標は、これが「阿夫利」をローマ字表記したものであるとしても、これを本件商標の指定商品に使用した場合に、日本酒、ビー ル等の産地、販売地又は品質などを表示したものと認識されるとはいえず、 商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるとは認められない。

(4条1項7号)被告が「ビール」を指定商品に含む商標を出願していること(証拠略)、被告が「整体」を指定役務に含む商標を出願していること(証拠略)は認められるものの、これらは、ラー メン事業において培ってきた既存のブランド戦略の拡張と評価し得るものである。そして、先願主義の原則(法8条1項参照)が採用されている法において、たとえ被告が、他の事業者において「阿夫利」の語を商品(日本酒や ビール)や業務(整体)に使用していることを知っていたとしても、このことだけから当該出願が社会的相当性を欠くものと断ずることはできない。

コメント
 本件事案については、知財高裁でも、本件商標「AFURI」は産地、販売地表示とは認められず、3条1項3号以下の無効理由のすべてが否定されて、審決が維持された事例である。「阿夫利」は当該地域の通称とも認められないとされた。原告の請求は被告の権利行使への対抗のようであるが、現在では、権利行使の制限としても争える(39条・特104条の3)が、これらの理由では、困難と思われる。