2026-03-16

工藤莞司の注目裁判:商標非類似として、侵害請求が棄却された事例

(令和7年7月9日 東京地裁令和6年(ワ)第70635号 「十字状図形」侵害事件 控訴棄却令和8年2月12日 知財高裁令和7年(ネ)第10066号)

事案の概要
 本件は、原告が被告に対し、被告が「被告標章1」、「被告標章2」(下右掲図参照)を付して各商品(かばん)を販売することにより、「原告商標」(18類等 下左傾図参照)に係る商標権(国際登録第1002196号)が侵害されていると主張して、 商標法36条1項及び2項に基づき使用に係る差止め並びに廃棄を求めた事案である。

判 旨
  原告商標と被告標章2の外観は、外側及び内側に略正方形が配置され、その内部の中央に幅広の十字が配置されているという点において共通する。これらの共通点は、取引者及び需要者が着目する図形の全体的構成に関わるものであるから、取引者及び需要者に対し、類似との印象を与えるものといえる。一方、原告商標と被告標章2の外観は、①外側及び内側の略正方形の四辺に当たる縁(辺)が、外側に向けて湾曲しているか(原告商標)、直線であるか(被告標章2)の点、②被告標章2の十字が支持棒を有するが、原告商標は有しない点、③外縁部分の幅が、原告商標の方が被告標章2より狭い点、④被告標章2は、外縁部分並びに十字及び支持棒が、その余の部分より盛り上がっているが、原告商標は平板である点、⑤被告標章2は、外縁部分の四隅にはリベット頭部状部分及びそれを囲む円型凹部が、外縁部分の上下左右には棒状凹部(棒状凹部の両端と四隅部分との間は湾曲した凹部で区切られている。)が、十字部分には斜線状の溝が4本存在するが、原告商標は平板である点、⑥外縁部分及び十字が白色 (原告商標)であるか銀色であるか(被告標章2。支持棒を含む。)の点、⑦⑥以外の部分が黒色(原告商標)であるか赤色であるか(被告標章2) の点において相違する。原告商標と被告標章2は、いずれも略正方形に囲まれた十字から成る比較的単純な構成であるため、取引者及び需要者が上記相違点を看取することは容易であるといえる。そして、上記①~⑤の相違点によって、原告商標が平板でシンプルな印象を与えるのに対し、被告標章2は、より重厚かつ複雑な印象を与えるものである。また、上記⑥及び⑦の相違点 について、被告標章2の色彩は、モノトーンではないという点で、全体として原告商標の色彩と異なる印象を与えるものである。これらの相違点は、上記の共通点から受ける類似との印象を凌駕し、原告商標と被告標章2の外観は、顕著な差異があるといえる。したがって、原告商標と被告標章2の外観は、取引者及び需要者に異なる印象を与えるものといえ、類似するとはいえない。
  原告商標と被告標章2からは、「十字」又は「クロス」の観念及び「ジュウジ」又は「クロス」の称呼が生じ得るから、両者の称呼及び観念は同 一である。
  取引の実情に関し、取引者及び需要者において、被告商品2の出所について誤認混同が生じていることをうかがわせる証拠は見当たらない。そして、原告商標は文字を含まず図形のみからなる商標であるが、インターネット上のショッピングサイトにおいて、取引者及び需要者は、主に商品名やブランド名等を利用して商品を検索し、購入するといえ、図形から生じる「十字(ジュウジ)」及び「クロス」という観念及び称呼に基づいて商品の検索等を行うことは想定し難い。そうすると、原告商標と被告標章2の観念及び称呼が同一であることによって取引者及び需要者に与える印象、記憶及び連想等が大きいとはいえず、前記の外観の差異は、観念及び称呼の共通性を凌駕するものといえる。
  以上によれば、原告商標と被告標章2が同一の商品であるかばん(原告 商標の指定商品及び被告商品2)に使用された場合に、その外観、観念及び称呼によって取引者及び需要者に与える印象、記憶及び連想等を総合して、その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察したとしても、原告商標と被告標章2が、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。よって、被告標章2が原告商標と類似するとはいえない。編注 原告商標と被告標章1とは非類似との判断部分は省略。                                              

コメント
 侵害訴訟において原告商標と被告商標とは非類似として、侵害請求が棄却された事例である。その中で、両商標は「十字」又は「クロス」において観念と称呼は同一だが外観上の差異がそれを上回るとしたものであるが、結論は兎も角、一体の図形商標として観るべきで、「十字」又は「クロス」の観念、称呼の認定は単純すぎ、この部分は要部として機能するのだろうか。本判決も、直後で図形から生じる「十字」、「クロス」という観念及び称呼に基づいて商品の検索等を行うことは想定し難いとし矛盾だろう。原告が提起した控訴審でも棄却された。

関連記事:工藤莞司の注目裁判:商標非類似として侵害請求が棄却された事例