2026-05-11

工藤莞司の注目裁判:出願商標「かまくら牛」は産地表示等として識別性がないとされた事例

(令和8年3月23日 知財高裁令和7年(行ケ)第10117号 「かまくら牛」事件)                        

事案の概要
 原告(審判請求人・出願人)は、本願商標「かまくら牛」(標準文字)、指定商品及び指定役務29類「牛肉、銘柄黒毛和牛肉、黒毛和牛肉、国産牛肉、輸入牛肉、牛肉を使用した肉製品、牛肉製品を主材とする惣菜、牛脂又は牛肉を用いたカレー・シチュー・どんぶり・スープのもと・お茶漬けのり・ふりかけ又はなめ物、食肉、食肉を使用した肉製品」及び35類「食肉及び牛肉の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(補正後のもの)について登録出願をし拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2025-5645)の請求をした処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。拒絶理由は商標法3条1項3号、6号及び4条1項16号である。                           

判 旨
 検討すると、前記のとおり、本願商標の構成中、「かまくら」の文字部分からは、「かまくら」との称呼と、「雪で作った半球形の室」又は「神奈川県鎌倉市」との観念が生じ、「牛」の文字部分からは、「うし」又は「ぎゅう」との称呼と、「ウシ目(偶蹄類)ウシ科の一群の哺乳類の総称」又は「うし。うしの肉」との観念が生ずる。そして、① 「神奈川県鎌倉市」との意味を有する漢字表記「鎌倉」の語と食品の一般的な名称を結合して成る標章を使用する商品は多数存在し、「神奈川県鎌倉市」との意味を有する平仮名表記の「かまくら」の語と食品の一般的な名称を結合させて成る標章を使用する商品も相当数存在すること、② 遅くとも平成17年頃以降、地域の特徴的な商品や役務に地域名を付加し一体的な名称とすることによって、「地域ブランド」を構築し、商品や役務ひいては地域自体の価値の向上、他地域との差別化を図ろうとする取組が進められ、牛肉については、産地である地域名と「牛」の語を結合させて成る標章が、全国的かつ一般的に使用されていることは、前記のとおりであり、かかる本願商標の構成文字の語義並びにその指定商品の取引の実情に照らすと、・・・「かまくら」の語と食品の一般的な名称を結合させて成る標章を使用する商品が相当数存在することを考慮しても、本願商標「かまくら牛」は、本件審決時(令和7年10月15日)に おいて、これがその指定商品又は指定役務に使用された場合に、取引者や需要者によって、「産地を神奈川県鎌倉市とする牛肉」程度の意味合いで、商品(取扱商品)の産地、品質その他の特徴又は役務の質、提供の用に供する物その他の特徴を表示記述するものとして一般に認識されるものであったと認められる。そうすると、本願商標は、その商品の産地、品質その他の特徴を普通に用いられる方法で表示記述する標章のみから成るものであって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、自他商品役務の識別力を欠き、商標としての機能を果し得ないものというべきである。以上によれば、本願商標は商標法3条1項3号に該当すると認められる。
 本願商標「かまくら牛」は、商品(取扱商品)の産地、品質その他の特徴、又は、役務の質、提供の用に供する物その他の特徴を表示記述するものとして 一般に認識されるものであったこと、本願商標は、一般的に使用される標章で あって、自他商品役務の識別力を欠き、商標としての機能を果し得ないもので あることは、前記とおりである。そうすると、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標というべきであり、その指定役務との関係で、商標法3条1項6号に該当すると認められる。
 前記によれば、本願商標を・・・「産地を神奈川県鎌倉市とする牛肉(を使用した商品又はこれを取扱商品とする小売等役務)」以外の商品又は役務に使用すると、商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれ があるといえる。したがって、本願商標は商標法4条1項16号にも該当すると認められる。           

コメント
 知財高裁は、本願商標「かまくら牛」は「産地を神奈川県鎌倉市とする牛肉」の意味合いから指定商品については産地等表示で3条1項3号該当、指定役務については同6号該当として、審決を支持したものである。指定商品・役務(牛肉等)についての識別性の判断であるから、商標としては「かまくら」が「雪で作った半球形の室」と認識されることは少ないだろう。なお、判決では、称呼、観念の語で判断しているが、これらは類否判断の要素で、識別性を有しない文字等からは称呼、観念は生じないとしてその認定はされないと思うが、こんな疑問を抱くのは私だけであろうか。