2026-06-11

EU:高い知名度があっても商標登録の「フリーパス」にはならない - Knijff Trademark Attorneys

多くの人にとって、DeepSeekは人工知能(AI)ツールとして馴染み深い存在である。
DeepSeekを開発した中国企業は、先進的な大規模言語モデル(LLM)の開発を専門としており、短期間のうちに多大な注目を集めるに至った。

しかし、そのような高い認知度を持つ「DEEPSEEK」の欧州商標出願は先行権利との抵触に直面した。ルクセンブルクに拠点を置く郵便および電気通信会社Post Luxembourgが保有する商標「DEEP」が先行して存在していた。その結果、欧州連合知的財産庁(EUIPO)は、「DEEPSEEK」の商標出願について、指定商品・役務の相当部分に関して登録を拒絶した。特に重要なのは、DeepSeekが事業を展開している中核的分野、すなわちソフトウェア、デジタルアプリケーション、データ関連サービスおよび通信サービスで登録が拒絶された点だ。

EUIPOは、先行商標「DEEP」と後願商標「DEEPSEEK」を比較し、両商標間に類似性が存在すると判断した。その主な理由は、先行商標である「DEEP」が後願商標の冒頭部分にそのまま完全に含まれていることである。後願商標に付加された「SEEK」という要素は、出願人に有利に働くほど十分な識別力を付加するものとは評価されなかった。さらに、関連するフランスの需要者は、いずれの商標も明確な意味を有するものとは認識しないため、共通部分である「DEEP」がより大きな比重を占めると判断された。その結果、EUIPOは、両商標は少なくとも外観上および称呼上において中程度の類似性を有すると認定した。

次にEUIPOは、商品・役務について検討した。多数のソフトウェア製品、データ関連商品、電気通信サービスおよび技術サービスについて、先行権利が保護する商品・役務との重複、あるいは少なくとも十分な程度の類似性が存在すると認定した。そのような状況の下、EUIPOは、需要者が「DEEPSEEK」を「DEEP」のバリエーション、サブブランド、または拡張ブランドとして認識する可能性は十分にあると判断した。そして、まさにこの点に商標上のリスクが存在する。すなわち、問題となるのは直接的な混同のおそれだけではなく、需要者が両商標について同一企業に由来するもの、あるいは経済的に関連する企業に由来するものと誤認する可能性がある点だ。 

本件を特に興味深いものとしているのは、DeepSeekが否定し難いほど高い社会的認知度を獲得していたにもかかわらず、それによって商標登録が救済されることにはならなかった。実務上、商業的な知名度やメディアでの注目度が高ければ、それだけで登録において有利な立場が得られると考えられることは少なくない。しかし、商標法において真に問われるのは、その名称が既にどれほど注目を集めているかではない。むしろ、出願に係る商品・役務との関係において、先行商標から十分な距離(識別性・非類似性)を保っているかどうかである。知名度は事業活動上の成功には寄与し得るが、先行権利を乗り越えて商標登録を受けるための「フリーパス」にはならない。

実務上の教訓
実務において、本件は有益な教訓を示している。特にテクノロジー分野では、ブランドが国際的に急速に展開され、短期間で高い認知度を獲得することが少なくない。そのような状況において、出願前のクリアランス調査は決して贅沢なものではない。むしろ不可欠な手続である。名称に対する市場の期待や話題性が大きければ、法的な問題も後から解決できるだろうと安易に考えがちだが、今回の決定は事態が逆の順序で進むこともあり得ることを示している。すなわち、まず高い知名度を獲得し、その後になって商標登録の段階で重大な障害に直面するというケースである。

本文は こちら (DeepSeek: Widespread recognition is no free pass to trademark registration)