商標の中には、ほとんど説明を要しないほど広く知られているものがある。「DIOR(ディオール)」はその代表例だ。
1946年に創業したフランスを代表するファッション・ブランド、ディオールは、ファッション、香水、化粧品などラグジュアリー商品の世界的な象徴へと成長した。このような高い知名度は、商標紛争において重要な資産となる。そのことは、化粧品や被服からライフスタイル関連商品、ファッション関連サービスに至るまで幅広い商品・役務を指定して出願された欧州商標「DAUR」に対する異議申立事件においても、改めて明らかとなった。
ディオールは、「DAUR」が「DIOR」に過度に類似していると主張し、その根拠の一つとして、著名商標に認められるより広範な保護を援用した。そのためには、当然ながら、「DIOR」が高い名声を有していることを立証する必要があったが、ディオールはこれを納得のいくように証明した。欧州連合知的財産庁(EUIPO)異議部は、多岐にわたる証拠を検討した。具体的には、ディオールの沿革に関する資料、売上高、市場占有率、広告宣伝費、年次報告書、受賞歴、美容・ファッション雑誌における掲載実績、さらにテレビシリーズやドキュメンタリー番組を含む国際的なメディアへの露出状況などである。
また、ディオールのソーシャルメディアにおける存在感も機能した。Instagram、TikTok、YouTube、LinkedIn、Pinterest、Facebook といったプラットフォームにおいて数百万人規模のフォロワーを有し、多数の閲覧数を獲得した広告キャンペーンを展開していることも、証拠の一部として採用された。
異議部は、これらの証拠に基づき、「DIOR」は長年にわたり集中的に使用されており、少なくとも化粧品、香水について、フランスにおいて極めて高い名声を享受していることを認定し、その上で、異議部は「DIOR」と「DAUR」との商標比較を行った。外観上の類似性は限定的である一方、称呼上は事情が異なると判断された。すなわち、フランス語においては、「DAUR」は「DIOR」に近い発音となり得るというのである。その結果、多数の商品・役務について、需要者が両商標を関連付けて認識する可能性があると認定された。この判断は、化粧品、香水にとどまらず、被服、宝飾品、バッグ、ホーム・ライフスタイル関連商品、ファッション関連サービスにも及んだ。
異議部は、「DAUR」は「DIOR」が有する魅力、洗練されたスタイル、高級感および流行への感度といったブランド・イメージに便乗することが可能だと判断した。その結果、「DAUR」商標出願は、多くの商品について登録が拒絶された。
この決定は、名声が十分かつ納得がいくように立証された場合、それが極めて強力な法的武器となることを示している。ディオールが勝った最大の理由は、提出した証拠が多面的であると同時に具体性を備えていた点にある。売上高や広告宣伝実績は依然として重要な立証資料であるが、ソーシャルメディアにおけるブランドの可視性、報道実績、各種ランキングや受賞歴、さらには大衆文化における露出もまた、立証資料全体の説得力を高める重要な要素となり得ることが、本件からも改めて示された。
