サウジアラビア知的財産総局(Saudi Authority for Intellectual Property:SAIP)は、サウジアラビアの国境における商標権行使手続をデジタル化し、迅速化することを目的とした一元的電子プラットフォーム「Tahaqaq」の試験運用を開始したと発表した。「Tahaqaq」の導入により、従来の税関における差止め手続の運用は大きく変更されることとなる。
1. 国境措置に関する通知を受けるためには登録が必須
権利者にとって最も重要なポイントは、国境における監視機能が新プラットフォームへの登録を前提としている点である。
* 登録がなければ通知も受けられない:税関が国境で侵害疑義のある模倣品を発見・差止めた場合に、自動通知を受けるためには、権利者は保有する登録商標を商標・区分ごとに「Tahaqaq」プラットフォーム上へ電子的に登録しなければならない
* プラットフォームへの登録は、企業の法令遵守という観点では「任意」と位置付けられているものの、国境監視を継続して受けることを希望するのであれば、実務上は必須の手続となる
2. 新たな国境取締手続
「Tahaqaq」の導入により、サウジアラビアへ輸入される侵害疑義貨物の取扱いは、迅速且つ物流への影響を抑えた手続へと変更される。
* 条件付きで輸入者への貨物引渡し:従来のように疑義貨物を港湾で物理的に留置するのではなく、税関は輸入者に貨物の引渡しを認める。この引渡しは、輸入者が調査継続中は当該貨物を販売、流通又は改変しないことを約束する厳格な法的誓約書に署名することを条件とする
* 現物サンプルの保管:税関は疑義商品の現物サンプルを港湾に保管する
* デジタル通知:税関は保管したサンプルの高解像度写真と船積書類の写しを「Tahaqaq」プラットフォームへアップロードする。ブランドオーナーの登録代理人(現地代理人)は、自動通知を受け、遠隔で証拠を確認することができる
3. 権利行使の選択肢と法的効果
ブランドオーナーは、デジタル証拠を確認した結果、当該商品が模倣品であると判断した場合、以下の二つの権利行使ルートのいずれかを選択しなければならない。この選択によって、事案への関与や情報へのアクセス可能範囲が大きく異なる。
(1)公訴手続ルート(Public Prosecution Route:民事訴訟を提起しない場合)
ブランドオーナーが侵害を確認したものの、輸入者に対する民事訴訟を提起しない場合には、SAIP及び税関が独自に事案を処理する。
事案は刑事事件として検察当局へ直接送致される。このルートでは、ブランドオーナー及びその代理人は、事案への継続的な関与、訴訟上の地位、および事案の進捗状況の把握を一切行えまない。また、刑事手続の進行状況や最終的な処分結果について当局から情報提供を受けることもできない。
(2)並行訴訟ルート(Parallel Litigation Route:民事訴訟を提起する場合)
ブランドオーナーが輸入者に対して民事訴訟を提起した場合、SAIPは民事訴訟の提起通知を受けると、並行して刑事手続を開始する。このルートでは、ブランドオーナー及びその代理人は刑事事件の手続状況を把握し、関連情報へアクセスするとともに、執行手続の進展や最終的な処理結果を継続的に確認することができる。
4. 導入スケジュールと移行期間
SAIPは、システムの安定運用及び利用者の登録作業を円滑に進めるため、約2か月間を予定する段階的導入を進めている。
現在、「Tahaqaq」は試験運用段階にある。当局からは約2か月の移行期間が示されているものの、全国の港湾で完全運用へ移行するまでには、最大6か月程度を要すると見込まれている。
移行期間中は、商標は代理人名で「Tahaqaq」に直接登録しなければならない。登録を担当する代理人が当該商標の登録代理人ではない場合には、「代理人変更」の手続が必要である。
また、プラットフォームへの登録には、商標登録証の写し及び認証(リーガライゼーション又はアポスティーユ)が付された委任状提出が必要とされる。
「Tahaqaq」の全面運用開始後は、商標に係る税関登録は同プラットフォーム上で直接処理される予定だ。これに伴い、現行の税関登録制度は「Tahaqaq」システムに統合されるか、同システムに置き換えられる見込みである。
したがって、移行完了後に国境措置に関する通知や税関からの差止通知(border enforcement notification)を受けることを希望する権利者は、「Tahaqaq」プラットフォームの利用が必須となる。
本文は こちら (Saudi Arabia Modernizes Border Enforcement with New Digital “Tahaqaq” Platform)
