現在、特許庁において、商標審査基準の改訂作業が行われていて、商標法3条関係部分は改訂が済み、本年4月から施行されている。この中で、従来、キャッチフレーズについては、原則登録しない旨定めた3条1項6号の審査基準が改訂され、その作業中に登録方向へ緩和されるとの報道があった。
キャッチフレーズと裁判例 私は、それは可能かなと疑問で、というのは、これまで、東京高裁(知財高裁)の裁判例があり、明確にキャッチフレーズは、商標として備えるべき自他識別機能を有しないとして、「習う楽しさ 教える喜び」(平成13年6月28日 東京高同13年(行ケ)第45号、「新しいタイプの居酒屋」(平成19年11月22日 知財高同19年(行ケ)第10127号、「お客様第一主義の」(平成25年11月27日 知財高同25年(行ケ)第10254号,)については、いずれも特許庁の扱いを支持しているからである。
新基準の概要 先日、特許庁からの説明会があり、報道は早計であったことが分かった。審査基準は、本来は特許庁の審査官用に定めたものであるが、この度の改訂の新基準では、ユーザーにも明確で分かりやすく、そして予見性の高い基準との方針の下で見直したという。キャッチフレーズについては、3条1項6号の新基準では、「商標が宣伝広告や企業理念・経営方針等」を表したものとのみ認識されるものは、6号に該当するとされた(新基準6号2.)。そして、その該当基準としては、指定商品・役務の説明やその特性・優位性を表したもの、宣伝広告用に一般的使用の語句からなるもの等が掲げられて、そのような商標は、宣伝広告を表示したものと扱われる(新基準6号2.(2))。
また、企業の特性や優位性の記述、その際の一般的使用の語句の記述等については、企業理念・経営方針等を認識させるものとして扱われる(新基準6号2.(3))。
他方、新基準では、企業理念・経営方針等とは扱わない例も掲げ、出願人が一定期間、自他商品・役務識別標識(キャッチフレーズとしてではない。)として使用しているが、他者が使用していないものを掲げている(新基準6号2.(3)(イ))。
なお、キャッチフレーズであっても、造語等、すなわち商標や商号の略称を一部に含むものは、該当しないことは従来通りである(新基準6号2.(1)第二文)。
新基準は、上記の通り、キャッチフレーズの概念を含めて規定し、該当例や非該当例の判断要素までを明確、丁寧に規定したものである。しかし、従来基準が緩和されたとは言えない。非該当の例が一応明示されている点等から先の報道がなされたのかもしれない。