地域団体商標に係る商標権とその侵害 =使用の差止め請求等への抗弁・反論=
地域団体商標制度が設けられて以来10年が経過し、約600件の地域団体商標が登録されている。先日、その一つ「小田原かまぼこ」を巡る侵害訴訟(横浜地裁小田原支部平成28年(ワ)第154号)が起きていると報道された(2016.5.28)。地域団体商標に係る商標権(以下「地域団体商標権」と略)の侵害について、紹介する。
地域団体商標権とその特徴 地域団体商標の商標権者は、指定商品・役務について登録地域団体商標の使用をする権利を専有する(25条)。他人が無断で、登録地域団体商標と同一の商標を使用すれば、地域団体商標権の侵害となる。同様に、他人が無断で、登録地域団体商標に類似する商標を同一又は類似の指定商品・役務について使用すれば、地域団体商標権の侵害とみなされる(37条1号)。この点は、地域団体商標権も通常の商標権も違いはない。地域団体商標の登録要件としては地域的な周知性であるが、発生する商標権は全国的に効力が及ぶ。 また、地域団体商標は、団体たる各種組合等のみが権利者となり得る(7条の2条1項)が、その構成員たる各組合員が登録地域団体商標を使用する権利を有する(31条の1)。例えば、登録地域団体商標「山形さくらんぼ」については、組合が商標権者となるが、組合員たる各さくらんぼ農家に使用する権利が保障される。しかし、地名プラス商品名等からなるという地域団体商標の性格上、組合等への加入の自由が保障されている必要がある(7条の2条1項)。山形の地域でさくらんぼを栽培する農家の使用に支障がないようにである。登録地域団体商標「博多織」事件では、正当な理由なく加入を拒否した者への権利行使は権利濫用とされた(福岡高裁14.1.29判決)。
使用の差止め請求等への抗弁・反論 地域団体商標権の侵害に対しては、商標権者は、権利行使として、使用の差止め、損害賠償又は信用回復措置の請求をすることができる(36条外)。登録地域団体商標が有し又は今後獲得する信用を保護するためである。 これに対して、侵害者側は、地域団体商標権の効力が及ばない使用であること又は先使用の権利を有すると抗弁・反論することができる(26条1項2号、32条の2)。侵害者側の使用が、指定商品等の品質を普通に用いられる方法で表示するものである場合、すなわち、単なる産地や品質表示としての使用については、地域団体商標権の効力は及ばず、侵害とはならない。また、地域団体商標権についての先使用権は、不正競争の目的のない出願前からの使用には、周知性の獲得なしでも認められる。通常の商標権とは違う。報道によれば、「小田原かまぼこ」事件では、この点も審理されているようである。事件の行方が注目される。