2017-07-24

日本:注目裁判例「山岸一雄(大勝軒)」事件 -工藤莞司弁理士

出願人が承諾を得た者の氏名を一部に含む出願商標について、他に存在する同一氏名の者の承諾を得ていないとして、商標法4条1項8号が適用された事例(「山岸一雄事件」(知財高裁平成28年(行ケ)第10065号 平成28年8月10日)

事案の概要  出願人(㈱大勝軒・原告)は、標準文字で表した「山岸一雄大勝軒」(「本願商標」)について、登録出願をしたが拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服審判(2014-24042)を請求した処、特許庁は、商標法4条1項8号(以下「8号」と略)該当として不成立審決をしたため、出願人は、知財高裁に対して、本件審決の取消し求めて訴訟を提起した事案である。「山岸一雄」は出願人の取締役で、承諾書提出。出願後死亡した。

判 旨  商標法4条1項8号の趣旨は、人(法人等の団体を含む。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護すること、すなわち、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがないという利益を保護することにある(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日裁判集民事214号373頁外)。本願商標の登録出願時及び本件審決時において、亡山岸とは別に、「山岸一雄」を氏名とする者が、複数生存していたものと推認され、亡山岸以外の「山岸一雄」を氏名とする者が本願商標の登録について承諾していたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

8号の趣旨やその規定ぶりからすると、同号にいう「他人の氏名」が、著名又は周知なものに限られるとは解し難く、また、同号の適用が、他人の氏名を含む商標の登録により、当該他人の人格的利益が侵害され、又はそのおそれがあるとすべき具体的事情の証明があったことを要件とするとも解し難い。すなわち、同号は、他人の氏名を含む商標については、そのこと自体によって、人格的利益の侵害のおそれを認め、その他人の承諾を得た場合でなければ、商標登録を受けることができないとしていると解される。

解 説 本件は、出願人が承諾を得た者の氏名を一部に含む出願商標について、他に存在する同一氏名の者の承諾を得ていないとして、8号が適用された事案である。このような事案の拒絶は不合理であると、本件事案のように、特に出願人側の自己の名が通っているときに指摘される。

しかし、本件判決も8号の規定からは、人格的利益の保護として、フル氏名・名称については、有名人、そうでない者も区別なく扱われるとした。一時審決は、業種の違いや著名性を考慮して同一名称の他人の想起の有無等から8号を解釈した時期があったが、そのような解釈については、知財高裁は誤りとした(平成20年(行ケ)第103309号 平成21年2月26日外)。本件審決は、著名性を考慮せず8号適用している。

8号は旧法以前からの規定を踏襲しているのであるが、商標法で、職権審査の対象として迄、個人の人格的利益保護を図る必要があるかという議論は有り得るだろう。(工藤莞司)