2017-11-06

日本:注目裁判例、「南三陸キラキラ丼事件」- 工藤莞司弁理士

商標法4条1項10号に係る周知商標の使用主体として飲食店の団体が認められた事例
(知財高裁平成28年(行ケ)第10245号 「南三陸キラキラ丼事件」審決取消請求事件 平成29年7月19日)

事案の概要 本件は、 出願人(請求人・原告)が本願商標「南三陸キラキラ丼」(標準文字)について、第43類「南三陸産の海産物を使用した海鮮丼物の提供、南三陸産の具材を含む丼物を主とする飲食物の提供」を指定役務として登録出願をした処、「南三陸キラキラ丼」外4件を引用し商標法4条1項10号該当を理由に拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判(2015-3135)を請求したが特許庁は不成立の審決をしたので、知財高裁に対しその取消しを求めた事案である。

判旨 引用商標の特定 引用商標「南三陸キラキラ丼」は、「『南三陸キラキラ丼』シリーズの第3弾として『南三陸キラキラうに丼』が5月1日、お目見えする。」(証拠略)、「『南三陸キラキラ丼』が25日に復活する。・・・四季の食材に合わせて、ウニ丼やイクラ丼など4シリーズを展開。」(証拠略)と用いられ、「シリーズ」の意味を考慮すれば、引用商標は、他の引用商標をまとめた総称的意味で用いられている。これに加え、他の引用商標は、いずれも「南三陸キラキラ○○丼」であり、引用商標と「南三陸キラキラ」「丼」において共通し、「○○」の部分は食材ないし時季を意味する語が用いられていることからすれば、需要者も、引用商標が、他の引用商標の総称的意味で用いられていることは容易に理解できる。このように、総称的な引用商標の周知性を認定するに当たっては、類似する他の引用商標の使用状況を考慮することは当然である。

使用主体の認定 引用役務の提供店は、第一段階においても、共通ルールを作成していること(証拠略)、提供店を網羅した共通のパンフレットを作成していること(証拠略)、共通の連絡先があること(証拠略)、共同して試食会を行ったこと(証拠略)など、引用各商標の出所識別機能及び品質保証機能を保護発展させるという共通の目的のもとに結束をしていたといえる。第二段階以降も、・・・同様に一定の結束をしていたといえる。よって、南三陸町地域を中心とする飲食店の団体は、「他人」に該当すると認められる。

周知性 以上によれば、本願商標が登録出願された時点で、引用商標「南三陸キラキラ丼」は、提供店の団体の業務に係る商標として、少なくとも宮城県及びその近隣地域の需要者の間に広く認識されていたというべきである。審決の間までも、周知性は継続していたと認められる。

解 説 本件では、商標法4条1項10号に係る引用商標の特定、使用主体及び周知性が争われて、いずれも肯定された。特に使用主体については、『10号所定の「他人」には,単一の者だけではなく,特定の商標の持つ出所識別機能及び品質保証機能を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれる』と不正競争防止法上の判例(「プロフットボール・シンボルマーク事件」最高裁昭和59年5月29日判決)を引用し、法人格とは無縁な飲食店が結束した集団としての団体についても認めたという点が、注目される。自然人や法人ではなく、さらにはフランチャイズチェーングループやNPO法人でもない、単なる飲食店の集団(集まり)である。説明なしの他法律の判例引用は気になるが、この点については、本件判決は、引用役務の提供店(引用商標の使用店)は、共通ルールの作成、共通のパンフレットの作成、共通の連絡先及び共同して行った試食会など、引用各商標の出所識別機能及び品質保証機能を保護発展という共通の目的のもとに結束をしていたと評価している。10号の使用主体には特段権利が認められるわけではないので、このような緩やかな解釈も可能なのだろう。同じ周知商標でも、商標法32条の先使用権の場合はどうだろうか。

また、引用商標中直接拒絶の理由となったのは未登録の商標「南三陸キラキラ丼」であるが、これが他の引用商標の総称的意味で用いられていて、そのことからシリーズ商標である他の引用商標の使用状況も、その周知性の認定においても考慮されている。(工藤莞司)