2018-06-20

日本:最近の4条1項15号事案裁判例 =審決取消し相次ぐ= - 工藤莞司弁理士

注目裁判例

最近商標法4条1項15号事案で、審決が取り消されている。以下の裁判例はいずれも無効審判不成立審決の取消訴訟事案である。
① 「鳥状図形ワンポイントマーク事件」 (審決取消し 知財高平成28年(行ケ)第10262号 平成29年9月13日 速報510-21019 審決「両商標非類似」 、判決「両商標の全体的な配置や輪郭等に類似性あり」 )

② 「豊岡柳事件」(審決取消し 知財高平成29年(行ケ)第10094号 平成29年10月24日 速報511-21093)審決「豊岡杞柳細工」とは非類似 判決「観念上類似」)
③ 「MEN’S CLUB事件」 (審決取消し 知財高平成29年(行ケ)第10109号 平成29年11月14号 速報512-21132)「男性用化粧品」と「同雑誌」の混同の虞審決「否定」 判決「広義の混同採用」)
④ 「レッド・ブル赤牛図形事件」 (審決取消し 知財高平成29年(行ケ)第10080号 平成29年12月25日 審決「類似性低い別異の商標」 判決「類似性高く、混同の虞、類似性は判断の一要素」)


  
⑤ 「GUZZILA事件」(審決取消し  知財高平成29年(行ケ)第10214号 平成30年6月12日 審決「GODZILLA」とは非類似 判決「外観、称呼上紛らわしい」関連性商品「電動ジャッキ、電動式高枝はさみ、草刈り機等」と混同の虞)

商標法4条1項15号の規定
 15号は、出願商標の不登録事由の一つとして、出所の混同を生ずる虞れのある商標は登録できない旨を定めたものである。同11号に該当しない場合であっても、他人の周知著名な商標との関係では、15号該当はあり得る。商標が類似しないときでも、15号の適用はあるし、他人の未登録商標や商号、氏名等との関係からも、混同の虞があれば、15号は適用される。混同とは、商品・役務の出所であって、商標の混同ではない。そして、15号の規定は、商標の類似を要件とはしていない。

判断基準 最高裁は、「レール・デュタン事件」判例で、次のように判断基準を示している。 「混同を生ずるおそれ」は、『当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。』 (最高裁平成10年(行ヒ)第85号 平成12年7月11日 民集54巻6号1848頁)。商標審査基準も同旨である(十三(2))。

判決と審決の違い 前掲各裁判例(③事件を除く。)では、審決は、本件商標と引用商標との類似については、11号に係る類似判断と同じ立場から判断をして、類似しないとして、混同の虞を否定しているようである。
しかし、前掲判例が示す「当該商標と他人の表示との類似性の程度」とは、その判示内容から窺えるように11号の類似よりは広く、緩いと読める。そして、混同の虞判断の一要素で、必須の要素ではない。したがって、例えば、類似性は薄くとも、引用商標の著名度が高ければ、混同の虞の判断は可能である。逆に、類似性が高くとも、著名性が低く又は商品等の関連性が薄ければ、混同の虞はないとの判断に至ることになる。この点において、審決と判決の判断に差が生じたと思われる。
15号は、事案からも分かるように、引用商標は周知・著名のもので、判例でも、必須の要素としていて、周知・著名商標の保護としても機能し、重要な不登録事由である。丁寧な判断が望まれる。(工藤莞司)