2018-12-18

日本:注目裁判例、「TOP-SIDER使用権者不正使用取消事件」 - 工藤莞司弁理士

商標法53条に規定する使用権者不正使用取消審判で、「混同を生ずる使用」を認めた成立審決が、知財高裁でも支持された事例(「TOP-SIDER使用権者不正使用取消事件」平成30年9月26日 知財高裁平成30年(行ケ)第10053号)

事案の概要 本件商標権者(原告・被請求人)が有する「25類 洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類」等に係る本件商標「TOP-SIDER」(登録第1809362)の通常使用権者が使用する商標(下掲右図)が「混同を生ずる使用」であるとし、引用商標(下掲左図)を有する者(被告・請求人)が、本件商標の登録に対し商標法53条1項に基づき使用権者不正使用取消審判(2016-300561)の請求をした処、特許庁は成立審決をした。そこで、原告(被請求人)が知財高裁に対し、審決取消しを求めた事案である。

判 旨 本件使用商標は、独創性の高い引用商標と類似しており、かつその類似性の程度は極めて高い。引用商標は、使用権者が使用開始した平成25年1月28日頃には、被告の靴(デッキシューズ)を表示するものとして、その取引者及びその需要者である一般消費者の間で、広く知られていたと認められる。以上のとおり、引用商標は、被告の靴(デッキシューズ)を表示するものとして取引者及び需要者の間で、広く知られているところ、本件使用商品シャツと引用商標使用の靴(デッキシューズ)とが関連性の高いことや、本件使用商標は、本件商標に雲を想起させる図形とヨットの図形が付加されて、引用商標と極めて類似することから、本件使用商品に接した取引者や需要者にとって、本件使用商品が被告の業務に係る商品であるとの混同を生じるおそれが十分にある。

解 説 本件は、商標法53条の使用権者不正使用取消審判の成立審決の取消訴訟で、数少ない審判事例で、その中でも、成立審決は少ない。使用権者の不正使用で、当該商標の登録を取り消すという制裁制度である。このため、商標権者には使用権者の使用に対し注意義務があり、これを履行しているときは取り消されない(53条1項但し書き)。商標法51条の不正使用取消審判とは違い、故意の要件はない。
 原被告は、本件商標の通常使用権者が、商標法53条1項にいう「他人の業務に係る商品と混同を生ずる使用をした」か、どうかを争い、これを肯定した審決を知財高裁が支持したものである。その中で、引用商標が使用商品靴(デッキシューズ)について周知性が認定されて、使用権者の使用商品シャツとの関係から、出所の混同の虞が認められたもので、本件商標と使用商標との酷似的類似も働き、「混同を生じるおそれが十分にある。」としている。
 引用商標の周知性については規定にはないが、混同の虞の前提的解釈で、運用でもある。また53条1項の混同も、4条1項15号と同様に、混同の虞で足りるとされる(「ブラウン事件」東京高裁昭和57年(行ケ)第50号 昭和58年10月19日)。
 なお、商標権者の使用権者の使用に対する注意義務については、本件事案では、そのような主張立証はなかった。