2020-04-30

日本:注目裁判例、登録商標の不使用を理由に差止請求権の行使は権利濫用とされた事例 - 工藤莞司

(「moto事件」平成31年2月22日 東京地裁平成29年(ワ)第15776号)

事 案 14類「時計」を指定する登録商標「moto」の商標権を有する原告が、商品「スマートウォッチ」に標章「moto」を付して販売等をする被告の行為は、原告商標権を侵害すると主張して、被告に対し、被告各標章を付した腕時計(主位的請求)又は被告商品(予備的請求)の販売等の差止めを求めるとともに、損害金の支払を求めた事案である。①指定商品と使用商品「スマートウォッチ」の類否、②被告側が有する登録商標「MOTO」の使用の抗弁、③:原告指定商品中「腕時計」は不使用で、取消審判で取り消されるべきで、原告権利行使は権利の濫用との抗弁の成否について、争われた。

判 旨 ①について、「スマートウォッチ」と「腕時計」との製造業者の同一性、商品の広告・販売状況、商品の用途、需要者の範囲等の事情を総合的に考慮すると、原告商標の指定商品腕時計及び被告商品に同一又は類似の商標を使用した場合には、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるというべきで、被告商品「スマートウォッチ」は、原告商標指定商品の「腕時計」と類似商品であるということができる。
 ③について、被告請求の取消審判の要証期間内において、原告商標が腕時計について使用されたとは認められず、原告商標の指定商品中「腕時計」は、不使用取消審判により取り消されるべきものということができ、不使用取消審判は既に請求されている状況にある。審判により取り消された後の「時計(腕時計を除く。)」との指定商品との関係では、被告商品「スマートウォッチ」は類似しない。したがって、原告による差止請求は、権利の濫用として許されない。
 しかし、原告が損害賠償を求めているのは、取消効果が生ずる前の分についてであるから損害賠償請求との関係では、権利濫用の抗弁は失当である。

コメント 本件裁判例の判決は、登録商標の不使用を理由として、当該商標権に基づく差止請求権の行使は、権利濫用で許されないと判示した、初めてのものと思われる。学説の一部には、不使用に係る商標権の効力は制限されるべきとの見解も見受けられるが、そのような裁判例は存在しなかった。本件事案では、既に被告が不使用取消審判請求中である点が考慮されたことは明らかである。そして、裁判所は、原告の使用事実の立証に基づき丁寧に使用の有無を認定し、指定商品「腕時計」については、不使用と判断したものである。しかし、現に取消審決やその確定がない時点で、原告の権利行使を否定したもので、そのためか権利濫用論を採用している。原告請求中、差止請求は将来に対するものであるため棄却されたが、過去の清算である損害倍賞請求は認容された。
 なお、②については、被告側登録商標は、原告登録商標の後願に係り商標法4条1項11号違反として無効審判で無効にされるべきもので、このような無効事由のある登録商標の使用の主張は権利の濫用であって、被告側登録商標の使用の抗弁は、成立しないとされた。当事者関係は逆だが、権利行使の制限規定(39条・特104条の3)の趣旨内である。