侵害訴訟において、真正品の並行輸入を認めた一審判決を控訴審も支持した事例(「2UNDR並行輸入事件」令和2年10月22日 東京地裁平成30年(ワ)第35053号、控訴審令和3年5月19日 知財高裁令和2年(ネ)第10062号控訴棄却)
事案の概要 本件は、商標権者原告X及びその独占的通常使用権者原告X2が、被告Yの本件標章が付された男性用下着の輸入等の各行為は原告らが有する商標権(登録第5696029号「2UNDR」)ないし独占的通常使用権を侵害すると主張して、被告Yに対し、本件標章を付した商品の譲渡等の差止を求めるとともに、被告Y及び被告Y2に対し、損害賠償金等の支払を求めた事案である。被告Yは、被告らの行為は真正品の並行輸入に当たると主張(「フレッドペリー事件」最高裁平成14年(受)第1100号 平成15年2月27日 民集57巻2号125頁)した。
判 旨 裁判所は、被告の使用は侵害に当たるとした上、真正品の並行輸入について、以下のように判断した。①当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものとの「第1要件」については、本件商品に付された本件標章は、外国における商標権者である原告Xから使用許諾を受けたR社とR社と実質的一体ともいえる原告Xによって、適法に付されたということが相当である。
②当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は同視し得るような関係があって、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものかの「第2要件」については、原告商標についてカナダなどの海外の商標権者と日本の商標権者はいずれも原告Xで、本件標章は原告商標と同一又は類似のものであるから、それらは同一の出所を表示するものであるといえる。
③被告商品と我が国商標権者の登録商標を付した商品とが品質において実質的に差異がないと評価されるかの「第3要件」については、我が国で販売される2UNDR商品が他国で販売される2UNDR商品と比べて格別の品質等を有していたと認められないことなどによって、原告商標の品質保証機能が害されることになるとはいえない。
以上によれば、被告Yの本件輸入行為は、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠く適法なものであると認められる。
コメント 本件は、侵害訴訟において、被告主張の真正品の並行輸入について争われて、一審も控訴審もこれを認めたものである。前掲最高裁判例では該当要件として、①当該商標が適法に付されたものであること、②外国における商標権者と我が国商標権者とが同一人又は同一視できる関係にあって、両商標が同一の出所を表示するものであること、及び③両商標に係る商品の品質について実質的に差異がないこととして、被告の行為はこれらを満たすとされたものである。③について、控訴審では、「商標権者自身が商品を製造している場合には,商品の品質は,商標権者自身が商品を製造したという事実によって保証されており,後は,その品質が維持されていれば品質保持機能に欠けるところはないといえる。」との解釈を示している。なお、③については、商標権者の品質管理が当該輸入商品に及ぶか否かを前提とするとの判例の読み方もある。