ブランドは、新規顧客の獲得や既存顧客の維持のために、日常的に創造的かつ革新的な方法を見出している。最近の顕著な例としては、既存のマスターブランドのポジショニングに悪影響を及ぼすことなく、同一市場または新しい市場に進出するためにサブブランドを使用することが挙げられる。Laura Morrishが解説する。
サブブランドを利用して、マスターブランドや製品ラインのポジショニングを損なうことなく、マスターブランドとは異なる魅力を作りだしたり、異なる世代の消費者をターゲットにしたり、異なる価格帯の市場を創出することができる。既存のマスターブランドの評判と消費者ベースにより、ゼロから新しいブランドを作るよりも、同じ商標を異なる製品ラインに使用することで、マスターブランドの知名度や信頼感を活かせる利点がある。
自動車、食品、飲料、ファッション分野におけるサブブランド
例えば、メインのTOYOTAブランドと、HILUX(ハイラックス)やPRIUS(プリウス)などのサブブランドを使用し、それぞれに魅力とイメージを持たせることは、自動車業界では一般的な手法だ。同じことが食品業界にもいえる。製品の出所を示すマスターブランドと共にサブブランドは製品や製品ラインを示すものになっている。例えば、イギリスの菓子・飲料メーカーのCadburys’(キャドバリー)は、Flake(フレーク)、Double Decker(ダブルデッカー)、Dairy Milk(デイリーミルク)などの上位ブランドであり、マスターブランドである。
食品・飲料業界では、サブブランドが健康志向の選択肢にもなっており、低アルコール飲料(Coca Cola Zero、Becks Blue、Müller Light)などの製品に使用されている。例えば、イギリスの酒造メーカー、Diageo(ディアジオ)は、スロージン、エルダーフラワージンやready-to-drink(蓋を開けてすぐにそのまま飲める)飲料など、いくつかの新しい種類のジンを作り、これらはすべて「GORDONS(ゴードンズ)」商標の下で、「SLOE」など記述的なサブブランドとともに販売されている。また、既存のブランドを利用して、まったく新しい製品ラインに進出する企業もある。例えば、ベルギーの菓子食品メーカー、ロータス・ベーカリーズは現在、看板商品のスペキュラース・ビスケットに加え、ビスコフ(BISCOFF)・アイスクリーム、スプレッド(パンなどに塗って食べるバターやジャムなど)、サンドイッチ・ビスケットを生産している。
ファッション業界もその一例で、高級ファッションブランドは、既存の評判を損なうことなく、より安価な二次ブランドを作り、異なる消費者にアプローチしている。このような場合、サブブランドはマスターブランドと区別されることが多い。例えば、デザイナーのクリストファー・ケイン(Christopher Kane)は、新しいブランド「MORE JOY」を使って、若者市場に参入している。一方、マシュー・ウィリアムソン(Matthew Williamson)やアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)は、MWとMcQという短くキャッチーなマークで低価格の製品を販売しているが、サブブランドとマスターブランドの結びつきにはこのような例もある。
サブブランド商標の留意点
まず、サブブランドは保護する価値があるかどうかだが、その答えは、商標の性質とその使用方法によって異なる。
サブブランドの識別力が高く、マスターブランドとは全く異なるものである場合、保護は不可欠である。しかし、識別力のあるマスターブランドと一緒に使用される記述的な用語である場合、登録による保護は一定以上の価値をもたらさないかもしれない。多くのサブブランドは、この中間に位置するため、それぞれの長所を評価する必要がある。
サブブランドは単独で使用されるのか、それとも常にマスターブランドと一緒に使用されるのか。どのような商品・サービスに使用され、それらの商品への使用がマスターブランドにどのような影響を与える可能性があるか?一般的に、ブランドが単独で使用されている場合や全く異なる製品ラインに使用される場合、商標の保護が必要となる可能性が高い。
サブブランドの使用がどのくらい長期間に及ぶか。サブブランドが季節商品や限定品にのみ使用されるのであれば、商標が登録される頃には使用が終了している可能性もある。毎年繰り返されるのでなければ、この種のサブブランドを保護することで得られるものは殆どないだろう。
サブブランド商標の登録を決定した場合、次のステップは、選択したサブブランドを使用する予定の法域での使用可能性/登録可能性を確認するためのクリアランス調査を行うことである。サブブランド商標が記述的で、一見してそれ自体では登録不可能な場合でも、第三者が「こっそり」登録する虞や、マスターブランドに類似する可能性のある識別力のある要素と共に保護を得たりする虞を評価することが重要である。コモンローの検索は、関連分野でどの程度広く使用されているかの指標にもなり、サブブランドの選択に影響を与える可能性がある。
マスターブランドがよく知られている場合でも、マスターブランドの下で販売されているものとは異なる商品・サービスに商標が使用される場合、新しい関心分野でも調査を行う必要がある。この分野で登録された商標は、以前は懸念されなかったかもしれないものでも、現在は競合する可能性があれば、その結果として、商標の監視、権利行使、共存の戦略も見直す必要がありそうだ。