2022-03-30

工藤莞司の注目裁判:登録無効請求で除斥期間経過後として商標法4条1項15号に関する請求却下審決が支持された事例

(「SHI-SA事件」令和4年2月22日 知財高裁令和3年(行ケ)第10101号)

 事案の概要 原告は、令和2年6月1日、本件商標登録(平成18年9月4日登録第4992824号下掲左図)の指定商品中、「沖縄の観光土産用又は沖縄をイメージしたTシャツ、その他のTシャツ」等の商標登録について、「プーマ図形商標」(下掲右図)を引用して、本件商標が商標法4条1項7号及び15号該当を理由として無効審判(2020-890043)を請求した処、特許庁は、4条1項15号の理由については、除斥期間経過として請求却下(商標法47条1項括弧書き)と、4条1項7号の理由については不成立の審決をしたため、原告は知財高裁へ対して審決の取消しを求めて訴訟を提起した。

 判 旨 不正の目的の有無 本件商標と引用商標の外観は、四足動物が右から左に向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通し、その基本的姿勢等に似通った点があるものの、引用商標には文字部分を有していないという顕著な相違があり、両商標の外観は明らかに異なること、本件商標から「ジャンピングシーサー・・・シシドッグ」の称呼が生じ、沖縄の伝統的な獅子像「跳躍するシー サー」の観念が生じるのに対し、引用商標からは、「プーマ」の称呼、「PUMA」ブランドの観念が生じるから、両商標は、称呼及び観念において異なる。
 本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれも異なるものであり、本件商標と引用商標が本件指定商品に使用されたとしても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできないから、本件商標と引用商標は類似しない。
 「JUMPING SHI-SA」によって、本件商標の動物図形からは、引用商標の「PUMA」ブランドの観念や「プー マ」の称呼は生じないことに照らすと、本件商標の動物図形は引用商標を模倣したものと連想、想起するからといって、周知著名な引用商標に化体した顧客吸引力にただ乗りし、その出所表示機能を希釈化させる「不正の目的」があったと認めることはできない。被告によるアダルトグッズへの被告標章の使用の事実があるからといって、「不正の目的」があったと認めることはできない。

 4条1項7号 本件商標と引用商標は類似せず、また、被告の本件商標登録について、周知著名な引用商標に化体した顧客吸引力にただ乗りし、その出所表示機能を希釈化させ、又はその名声を毀損させる「不正の目的」があったものと認めることはできない。

 コメント 本件事案は、請求理由中4条1項15号(以下「4条1項」を略す。)については、請求が設定登録から除斥期間5年を経過しているため、不正の目的の有無がポイントとなり(商標法47条1項括弧書き)、知財高裁もこれを審決と同様に否定し、審決を認めたもので、稀有な事案である。
 不正の目的については、判決は、本件、引用両商標は、使用しても出所の混同の虞はなく類似しないとして不正の目的なしと結論付けているが、これでは理由が十分ではない。不正競争の目的よりは広く、また15号は、商標の類似を前提とする10号、11号よりは適用範囲は広い筈である。そして、原告主張の被告側の登録後の事情等も斥けている。「本件商標の動物図形は引用商標を模倣したものと連想、想起する」と説示する部分もあり、これを超えて否定する判断理由が足りないように思われる。
 被告側のパロディ対策の一環で同時期同種事案4件あるが、知財高裁はいずれも請求を棄却した。