2022-03-31

工藤莞司の注目裁判(速報):靴底に施した赤色が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示には該当しないとされた事例

(「ルブタン事件」令和4年3月11日 東京地裁平成31年(ワ)第11108号)

事案の概要 原告表示(女性用ハイヒー ルの靴底に赤色を付したもの。右掲図はその一例)を使用した商品などを製造販売等している原告が、女性用ハイヒールの製造販売等をしている被告に対して、不正競争防止法(以下略)2条1項1号及び2号に掲げる不正競争に該当すると主張して、被告商品の製造、販売又は販売のための展示の差止め及び廃棄等を求めた事案である。                       

判 旨 商品の形態は、①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知(以下、「周知性」といい、特別顕著性と併せて「出所表示要件」という。)であると認められる特段の事情がない限り、 2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。
 原告表示は、原告赤色を靴底部分に付した女性用ハイヒールと特定されるにとどまり、女性用ハイヒールの形状(靴底を含む。)、その形状に結合した模様、光沢、質感及び靴底以外の色彩その他の特徴については何ら限定がなく、靴底に付された唯一の色彩である原告赤色も、それ自体特別な色彩であるとはいえないため、被告商品を含め、広範かつ多数の商品形態を含むものである。
 したがって、原告表示に含まれる赤色ゴム底のハイヒールは明らかに商品等表示に該当しないことからすると、原告表示は、全体として2条1 項1号にいう商品等表示に該当しないものと認めるのが相当である。
 また、極めて強力な宣伝広告が行われているとまではいえず、原告表示は、周知性の要件を充足しないというべきである。したがって、原告表示は、そもそも出所表示要件を充足するものとはいえず、2条1項1号にいう商品等表示に該当するものとはいえない。そうすると、原告表示は、同項2号にいう著名な商品等表示にも該当しないことは明らかである。

コメント 裁判所は、本件事案の原告表示は、2条1項1号、同2号の商品等表示には該当しないとして、請求を棄却したものである。原告表示の靴底の色彩は商品形態として捉え(2条4項)、①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有し、②使用の結果出所表示機能性を獲得したときは、商品等表示に該当するとしたが、いずれもの該当を否定した。先裁判例(「PTPシート・カプセル配色事件」平成18年1月18日 東京地裁平成17年(ワ)第5651号)に倣い、①かつ②該当する表示として厳しく解している。原告表示は、靴底全体に施された赤色表示で、それ自体で出所表示機能としての特徴はなく、また単色のみでは使用による出所表示機能の獲得は困難であることは疑いない。
 原告表示に係る出願(2015-29921)の色彩のみからなる商標も、商標法3条1項3号該当とし、同3条2項の適用も否定して拒絶され、拒絶査定不服審判(2019-14379)係属中のようである。以前同種事案について、偶々考慮する機会があり、2条1項1号適用事例で、使用による出所表示機能性の獲得の立証が最大のポイントであろうと思ったが、その困難性は、本件裁判でも明らかになった。