2022-04-15

工藤莞司の注目裁判:不使用取消審判において、指定商品「フランス製の被服」への使用について争われた事例

(「フランス製の被服事件」令和4年3月22日 知財高裁令和3年(行ケ)第10087号)

 事案の概要 
 被告(審判請求人)は、原告(審判被請求人)が有する本件商標(「I R O PARIS」登録第5623868号)25類「フランス製の被服、フランス製の履物、フランス製の運動用 特殊靴、フランス製の帽子」等の登録に対して、本件商標の全ての指定商品について不使用取消しの審判(取消2019-300770)を請求した処、特許庁は登録を取り消す旨の成立審決をしたため、原告が知財高裁に対し、審決取り消しを求めて訴提起した事案である。

 判 旨 原告が本件商標の指定商品と主張する本件使用商品は、フランス国パリにある原告の本社の従業員(デザイナーチーム)によりデザインされ、パリで入手可能な素材を使用してパリで試作され、フランス国法人としての原告による品質管理の下で製造されてはいるものの、本件使用商品はフランス国以外の国のサプライヤーによって製造されていることが認められる。そして、本件指定商品は、「フランス製の被服」であり、「フランス製」とは、フランス国内で製造された物を意味すると解されるところ、本件使用商品は、フランス国以外の国で製造された物であるから、本件使用商品の使用によっては本件指定商品について本件登録商標を使用したものと認めることはできない。
 商標法50条2項によれば、・・・本件指定商品のいずれかについての本件登録商標の使用の事実を証明しなければならない。そして、使用の事実は本件指定商品と同一の商品に限られるのであって、指定商品に類似する商品についての使用の事実を証明しても、登録取消しを免れ得ないことは、同条項の文理上明らかである。
 しかしながら、原告の主張は、結局のところ、本件使用商品(フランスで企画等が行われた被服等)は本件指定商品(「フランス製の」被服等)と類似すること、あるいは社会通念上同一と認められることを理由に、本件商標の登録取消しを免れ得ると主張するに等しいものであり、商標法50条2項の文理に反するから採用できない。

 コメント 本件事案では、指定商品「フランス製の被服」について、その解釈が争われたもので、裁判所は文言通り解釈し原告の主張を斥けて、審決を支持したものである。指定商品の品質管理がフランス在の原告によって行われていることからフランス製と解釈できる旨の原告の主張については、裁判所は一顧だにしなかったが、真正品の並行輸入に係る判例上の同一性要件の一つである(最高裁平成14年(受)第1100号 平成15年2月27日)。   
 原告は、指定商品の拡大解釈を求めたのであって、類似商品や社会通念上同一商品をも使用と認めよとの理由に等しいとの裁判所の理解には、違和感を覚える。登録取消しという制裁措置である本件審判の趣旨から、もう少し柔軟な解釈の余地もあるのではなかろうか。商標的使用に関しては、趣旨解釈をして商標的使用は要しないとした「LE MANS事件」(平成28年9月14日 知財高裁平成28年(行ケ)第10086号)等がある。