2022-05-16

工藤莞司の注目裁判:出願商標は結合商標として分離観察され、引用商標と類似商標とされた事例

(「nico事件」令和4年4月25日 知財高裁令和3年(行ケ)第10148号)

 本件事案 原告は、本願商標(右掲図上)について、指定商品を3類、5類として登録出願をしたが拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2021-4776)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて訴訟を提起した事案である。審決の理由は、本願商標は、引用商標(登録第5228837号右掲図下)と類似し商標法4条1項11号該当としたものである。

 判 旨 (本願商標の要部)本願商標が、全体の構成からみると、上段部分と下段部分とを分離して観察することが取引上不自然とはいえず、上段部分は下段部分と比して全体の大きさは小さく、出所識別標識として特定の称呼、観念を生じさせないものであること等に照らしても、本件商標の要部は下段部分であるとするのが相当である。
 そうすると、本願商標の下段部分に接した取引者及び需要者は、末尾の欧文字は一般的に慣用されているものと同様に図案化されたものと理解し、認識するものということができる。そして、この下段部分からは「nico」の欧文字に相応して「ニコ」の称呼を生じるものであるが、「nico」の欧文字は辞書等に載録されているものでなく、特定の観念を生じさせるものではない。
 (本願商標と引用商標の類否)本願商標の要部である下段部分と引用商標の要部である 「NICO」は、観念において比較することができないものの、外観において類似し、称呼は同一であるから、本願商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用された場合には、当該商品の出所を誤認混同するおそれがあるというべきである。原告が指摘するイラスト部分は、欧文字の「o」を顔等の図案化するものとしてこれまで慣用されてきたものと大きく異なるものではなく、イラスト部分が強い支配的印象を与えるものではない。

 コメント 本件事案では、本願商標は結合商標として、「nico」部分が要部と認定されて、その結果、引用商標と類似と判断された。原告主張の末尾文字の図案化については、一般的に慣用されているものと同様に図案化したものとされて、称呼には影響を与えないとした。被告(特許庁長官)側の立証に依ったものである。両商標は外観類似ともされ、アルファベットの大文字と小文字の差異は類似の範囲とするのが裁判所である。
 原告が主張した本願商標を使用しているが現に出所の混同は生じていないとの点に関しては、知財高裁は、商標の類否判断に当たり考慮される取引の実情とは、その指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指すものであつて、該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的、限定的なものを指すものではない(「保土谷化学社標事件」昭和49年4月25日 最高裁昭和47年(行ツ)第33号 審決取消訴訟判決集昭和49年443頁)として、斥けられている。商標審査基準(改定15版十、1.(1)なお書き参照)でも、同様に定められている。