2022-06-29

工藤莞司の注目裁判:結合商標の分離観察の是非が争われて、これが否定された事例

(「三橋の森の一升パン事件」令和4年5月31日 知財高裁令和3年(行ケ)第10160号 審決取消請求事件)

事案の概要 
 原告(審判請求人)は、本件商標の登録について、登録無効審判(2021-890009)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した事案である。
 審決理由は、本件商標は、引用商標とは類似しない商標で商標法4条1項11号には該当せず、また、商品の出所の混同を生ずるおそれがある商標ではなく同条項15号にも該当しないとしたものである。

本件商標 登録第6113801号 商標 「三橋の森の一升パン」(標準文字) 30類「パン、パン生地」等
引用商標 登録 第5839434号 商標「一升パン/イッショウパン」 30類「菓子、パン、サンドイッチ」等

判旨
 本件商標及び引用商標の上段部分は、全体の外観及び称呼が明らかに相違するというべきで、また、いずれも特定の観念を生じないもので、これを全体的に考察すると、両者が同一又は類似の商品に使用された場合に、当該商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。したがって、本件商標は、引用商標に類似する商標とはいえない。
(「一升パン」が要部との原告主張に対して)「一升パン」の語は、旧来から1歳の誕生日を迎えた子供のお祝いとして用いられてきた「一升餅」の「餅」の語を「パン」に置き換えたものにすぎないといえる(証拠略)上、「一升パン」と称する商品は、査定時において、原告以外の少なくとも100を超える事業者によっても製造、販売されていたとこと(証拠略)からすれば、「一升パン」の語は、造語であることを考慮しても、それ自体が特徴的又は印象的な語であるとまではいえない。また、本件商標は、「三橋の森の一升パン」の文字のいずれかの部分が目立つ態様で記載されているものではない上、査定時において、「一升パン」の語が、原告の商品表示として、本件商標の取引者及び需要者の間に広く認識されていたとはいえない。以上の各事情を考慮すると、本件商標の「一升パン」部分は、取引者、需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとは認められない。
 また、本件商標は、原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であるとはいえないから、商標法4条1項15号に該当するものとは認められない。

コメント 
 本件裁判例では、結合商標との類否が争われて、知財高裁も、本件商標については、分離観察を否定して、審決を支持したものである。原告は、本件商標の要部は「一升パン」の部分との主張をしたが、セイコーアイ事件判例(最高裁平成3年(行ツ)第103号 同5年9月10日 民集47巻7号5009頁)に従い、「一升パン」の部分は、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとは認められないと認定、判断し否定した。要するに、識別機能が強い部分ではないと判断したものである。妥当な判断ではあるが、判例の趣旨は、他の部分「三橋の森」とにおいて相対的に支配的であるか否かと読むべきであろう。
 なお、結合商標については、例えば、一体性を欠く構成や冗長な二語商標など、結合が弱い場合は、いずれの部分も分離可能な結合商標もあり、審査基準でもそれを前提とする観察についても定めている(特許庁「商標審査基準」15版第3 十、4.(1)イ)。