(「温石灸事件」令和4年6月16日 知財高裁令和4年(行ケ)第10002号 審決取消請求事件)
事案の概要
原告(出願人・審判請求人)は、指定役務を44類「あん摩・マッサージ及び指圧、きゅう、はり治療、カイロプラクティック、 医療情報の提供、栄養の指導」とする本願商標について、登録出願をした(商願2019-098619)処、拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判を請求した(不服2020-16917)が、特許庁は、不成立審決をしたため、本件審決の取消しを求めて、知財高裁に対し本件訴えを提起した事案である。本願商標は、商標法3条1項3号に該当し、また役務の質の誤認を生ずるおそれがあるから、同法4条11項16号にも該当するというものである。
判 旨
前掲の事情を併せ考えると、本件審決時の本件業界において、 温石を用いた施術は、 患部を温めるための道具として火をつけたもぐさの代わりに温めた石を用いることにより、灸に類似する効果を得ることができる施術として、「温石灸」との名称でも広く行われている実情があったといえる。以上のとおり、本件審決がされた当時の本件業界においては、温石を用いた施術が、患部を温めるための道具として火をつけたもぐさの代わりに温めた石を用いることにより、灸に類似する効果を得ることができる施術として、「味噌灸」等と同様に「温石灸」との名称でも広く行われている実情があったことを併せ考慮すると、本件審決時の本件業界において、「温石灸」の語は、「火をつけたもぐさの代わりに温めた石を患部に置く、灸と同種の施術」を表す語として、「温めた石を用いた灸(施術)」ほどの意味合いの語と取引者、需要者に容易に理解されるものであった。 したがって、本願商標の取引者、需要者は、「温石灸」の語が本願商標の指定役務に使用された場合には、「温めた石を用いた灸(施術)」ほどの意味合いを有する語であり、役務の質(内容)を表示したものと一般に認識するものというべきである。 以上によれば、「温石灸」の語は、本願商標の指定役務との関係で役務の質を表示するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該役務に使用された場合に、役務の質を表示したものと一般に認識されるものというべきであるから、本願商標の指定役務 について役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章である。
また、本願商標が、その指定役務のうち「温めた石を用いた灸(施術)」以外の指定役務に対して使用された場合には、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるといえる。
コメント
本件裁判例では、本願商標「おんじゃくきゅう/温石灸」は指定役務の質(内容)を表示するか否かが争われて、知財高裁はこれを肯定し、審決を支持したものである。当該業界の実情を丁寧に認定して、「ワイキキ」判例を引用して(最判昭和54年4月10日同53年(行ツ)第129号)、私的独占性不可の点にも言及し結論を導いている。原告は、本願商標は造語で直接表示ではないと主張したが、確かに既成語ではないが、当該取引者、需要者の認識を基準とすれば正当な判断であろう。指定役務の質の誤認のおそれも肯定された。