2022-09-05

工藤莞司の注目裁判:日本酒商標等に関し争われた不正競争防止法2条1項1号等による請求が棄却された事例

(「酒々井の夜明け事件」令和3年11月12日 東京地裁令和2年(ワ)第16590号 不正競争行為差止等請求事件

事案の概要

 原告は、千葉県印旛郡で酒造を営み、日本酒商品(左掲図・商品名「酒々井の夜明け」。)を製造、販売等し、被告は、福井県吉田郡で酒造を営み、日本酒商品(右掲図・商品名「九頭竜の夜明け」)を製造、販売等している処、原告が、被告に対し、被告使用の商品名の表示、商品容器の図案等及びこれらを組み合わせた表示は、不正競争防止法2条1項1号及び2号の不正競争行為に該当すると主張して、被告商品の製造、販売等の差止めを求めるとともに、損害賠償を求めた事案である。

 

判旨
 原告の商品等表示(商標や商品容器等)の周知著名性の有無(争点2) 被告商品の販売開始当時、原告表示「酒々井の夜明け」が原告の商品等表示として需要者の間で周知著名であったということはできない。
 原告容器の図案等が需要者の間で周知著名であったということはできないので、原告容器の図案等は不競法2条1項1号及び2号の「商品等表示」に該当せず、またこれらの規定における周知性又は著名性の要件を充足しない。これらを組み合わせた表示についても 周知著名であると認めることはできない。
 商品等表示の類否(争点3) 原告表示及び被告表示の要部が「夜明け」であるということはできず、両表示はその全体を一体として対比すべきであるところ、両表示を全体として対比すると、その外観、称呼、観念が異なることは明らかである。したがって、被告表示が原告表示に類似するということはできない。両容器の図案等の共通点から受ける印象は相違点から受ける印象を凌駕するものではなく、そうすると、両容器の図案等が類似するということはできない。
 商品名の表示と容器の図案等を組み合わせた表示の類否について 上記のとおり、原告表示と被告表示、原告容器と被告容器の図案等は、いずれも類似するものということはできないので、商品名の表示と容器の図案等を組み合わせたものが類似しているということはできない。以上によれば、原告の商品等表示と被告の商品等表示が類似するということはできない。

コメント 
 本件は、不正競争防止法2条1項1号等事案であるが、肝心の原告商品等表示の周知著名性も、原被告の商品等表示の類似性のいずれも否定されて、原告の請求が棄却された事例である。原被告は地域的には、相当離れた醸造業者であるが、その間で商品の競合やその可能性については、何ら触れられていない。いずれもオンライン販売しているとあるから、この点からの競合の可能性であろうか。
 原告商品等表示が不正競争防止法2条1項1号で保護を受けるには、被告商品販売地での周知性が必要であり、具体的な出所の混同の虞の阻止が規定の趣旨だからである。インターネット取引下では、従来とは異なる保護態様も考えられるのであろうか。興味を惹くところである。
 最近不正競争防止法2条1項1号事案がないため、昨年の裁判例であるが紹介した。