2023-02-15

EU,英国:最近の異議申立から見えてきたEUと英国の異なる間接的混同の解釈 - Novagraaf

 EUと英国で並行して行われた多くの異議申立によっても示されているように、商標紛争は異なる法域で異なる結果をもたらすことがある。英国商標弁理士(UK Trademark Attorney)Mona Asgari氏が間接的混同に基づく最近の異議申立におけるEUIPO(欧州連合知的財産庁)とUKIPO(英国知的財産庁)が取った異なる立場と現地代理人の重要性を解説する。

 UKIPOとEUIPOが間接的混同をどう捉えるかで対照的なスタンスを取っていることが明らかになりつつある。Brexit後、最近のASICS Corporation(アシックス社)対 World Champion Imprint Club Limited(World Champion社)のケースを含め、多くの英国とEUの並行した異議申立がこれを示している。

 英国商標法およびEU商標規則はいずれも、「混同の虞には、先行する商標を連想する可能性が含まれる」と明記している。しかし、アシックス社 対 World Champion社のケースでは、商標権侵害のこの点に関する立場が著しく対照的であった。

 2022年11月、ノヴァグラーフの顧客であるアシックス社は、World Champion社に対する英国での異議申立てに成功し、UKIPOは間接的混同を根拠とした混同の虞を認めた。しかし、そのわずか数ヶ月前に、EUIPOは、それぞれの商標の間に混同の虞はないとの判断を示していた(異議申立書B3142170およびB3142186)。

間接的混同
 アシックス社は、World Champion社の出願に対し、うず巻を表しているロゴ(下図)を根拠として英国とEUで異議申立を行った。

World Champion社の出願商標
アシックス社の先行商標

 混同の虞を評価するにあたり、UKIPOはLA Sugar事件で示された間接的混同に引用した。
「直接的混同と間接的混同はどちらも消費者の誤認によるものだが、これらの誤認は性質が大きく異なることを理解しておく必要がある。直接的混同には推論の過程がなく、ある標章を別の標章と誤認するという単純な問題である。一方、間接的混同は、後願の標章が先行する標章と異なることを消費者が実際に認識した場合にのみ生じる」

 本件の事実は、LA Sugar事件で示されたカテゴリーに直接当てはまらないが、この事件で議論された間接的混同の例が全てではないとされた。

 UKIPO の分析には、市場における位置づけに関する考察も含まれていた。その結果、アシックス社の先行する商標の場合のように、識別力と評判が向上している場合には、間接的混同につながる論理的なブランド拡張やサブブランドの余地があると結論づけた。したがって、60ページ近くに及ぶ決定では、World Champion社の出願商標によって先行商標が想起される可能性を生じさせるとして、異議申立を認めた。

対照的なEUの商標権侵害
 一方、EUIPOの評価には間接的混同に関する考察が含まれていない。EUIPOは、異議申立対象商標は文字の要素からなる図形的なものであるのに対し、アシックス社の先行する商標は抽象的な図形的要素であり、両者をそのまま比較できないため混同の虞は存在し得ないとの判断を示した。

 重要なLA Sugar事件の原則が働いたのだ。決定には以下のように述べられている。
「混同の虞の基準に連想の可能性を含む[…]ということは、類似する意味内容の結果として公衆が2つの商標間で行うかもしれない単なる連想は、それ自体、当該規定の意味における混同の虞があると結論付ける十分な根拠にならないことを意味していると解釈される」

 両商標の比較はここで終わり、EUIPOは混同の虞はないと判断した。これは、連想の可能性がシリーズ商標やファミリー商標に関係するという歴史的な判例法やEUIPOの決定に起因するものである。

 したがってEUでは、連想の可能性が混同の虞を認定するための代替案とはみなされないということである。実務的には、連想の可能性の評価は無視されることが多い。EUIPOが行った商標の比較では、シリーズ商標やファミリー商標に関係なく、商標は額面通り非類似と判断し、異議申立てを認めなかった。決定はそれぞれわずか5ページであった。

現地代理人の重要性
 このように法域によって結果が大きく異なることから、商標権行使や紛争に法域ごとに代理人を関与させるべき理由を示す良い例となる。例えば、英国での商標権侵害訴訟における弁護は英国の事務所に依頼することが推奨される。
 また、間接的混同によって既存の権利を侵害する可能性を避けるため、新たな商標出願の前に使用可能性調査を行うことも推奨される。

本文は こちら (Trademark infringement law: Differing indirect confusion definitions in the EU and UK)