2023-03-01

工藤莞司の注目裁判:「ルブタン色彩商標」について使用による識別力の獲得に高いハードルを課し、否定した事例

(令和5年1月31日 知財高裁令和4年(行ケ)第10089号 ルブタン審決取消請求事件)

事案の概要 原告(請求人・出願人)は、本願商標(右掲図参照)について、指定商品を25類「女性用ハイヒール靴」として登録出願をしたが拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判の請求(2019-14379)をした処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し審決取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。争点は、本願商標の商標法3条2項該当性のみとなった。

判 旨 商標法3条2項の趣旨に照らせば、自由選択の必要性等に基づく公益性の要請が特に強いと認められる、単一の色彩のみからなる商標が同条同項の「使用をされた結果・・・商品又は役務であることを認識することができるもの」に当たるというためには、当該商標が使用をされた結果、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益性の例外として認められる程度の高度の自他商品識別力等を獲得していること(独占適応性)を要するものと解するべきである。
 本願商標の構成態様は特異なものとはいえないこと、原告女性用ハイヒール靴の中敷きに「Christian Louboutin」のロゴが付されており、これらの文字から原告の女性用ハイヒール靴の出所が認識され、又は認識され得ることは否定できないこと、複数の事業者が本願商標の色彩と同系色である赤色を靴底に使用した女性用ハイヒール靴を販売していたこと等の諸事情に加え、本件アンケートの調査結果から推認される需要者の本件商標の認知度は限定的であることを総合考慮すると、本願商標は、公益性の例外として認められる程度の高度の自他商品識別力を獲得している(独占適応性がある)と認めることができないものであることは明らかである。以上によれば、・・・商標法3条2項が定める「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品」と認識することができるものに該当するものとはいえない。

コメント 本件事案では、原告が3条2項の適用についてのみを争ったもので、それが否定された事例である。3条2項の適用については、原告が使用による識別力の獲得を、使用実績をもって自ら積極的に立証しなければならない事実に基づくものである。
 原告は広範囲に立証しているが、知財高裁は、本願商標は公益上一私人の独占不適な商標であってその例外となるには高度な識別力の獲得が必要と高いハードルを課し、識別力獲得へマイナス要因を挙げて、結論を導いている。そして、マイナス要因として、構成態様が特異なものではないこと、原告商品には別途ロゴ商標が付されていること、複数の事業者が赤色靴底の女性用ハイヒール靴を販売していたこと及び本件アンケートの調査結果も全国的なものでないことを挙げて、否定した。
 これらの認定、判断は妥当ではあろうが、単色の色彩のみからなる商標の保護は容易ではないとしても、遠いものと考えざるを得ないことを本件判決は示した。
 単色の色彩のみからなる商標については、「橙色事件」(令和2年3月11日 知財高裁令和元年(行ケ)第10119号 、「オレンジ色油圧ショベル事件」(令和2年6月23日 知財高裁令和元年(行ケ)第10147号、令和2年8月19日 知財高裁令和元年(行ケ)第10146号、「ごく暗い赤の鉛筆事件」令和5年1月24日 知財高裁令和4年(行ケ)第10062号)と同旨の判決が続いている。
 また「ルブタン色彩商標」については、本件判決に先立ち、知財高裁は、不正競争防止法事件の控訴審事案も棄却している(令和4年12月26日 知財高裁令和4年(ネ)第10051号)