(令和5年3月7日 知財高裁令和4年(行ケ)第10101号 マレーシア国政府機関出願事件)
事案の概要 原告(請求人・出願人)は、本願商標(右掲参照)について、29類に属する商品(補正後)を指定して登録出願をしたが拒絶査定を受けて査定不服審判(2021-008337)の請求をした処、 特許庁は不成立審決をしたため、審決取消しを求めて、知財高裁に対し本件訴訟を提起した事案である。原告主張の取消理由は、拒絶理由の商標法4条1項5号は、パリ条約6条の3の解釈を誤って制定されており、同5号の適用においては、パリ条約6条の3正文の正しい解釈基準に基づいて適用されるべきで、本願は権限のある官庁本人の出願で、当該官庁の許可を受けていることから、パリ条約6条の3の例外要件を満たしているため、本願商標には商標法4条1項5号の適用はない旨主張した。
判 旨 原告が「マレーシア国の法律に基づく政府機関であって、財産処分権限及び管理権限を有する」法人としても、本願商標は、パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国の政府の監督庁又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一の商標であって、その印章又は記号が用いられる商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから、4条1項5号に該当する。
仮に、原告指摘の解釈、「権限のある官庁の許可を受けない」同盟国の紋章等の商標又はその構成部分としての登録を拒絶し、又は無効とするとの解釈を採用するとしても、同規定は、「権限のある官庁の許可」を受けた登録出願をどのように取り扱うについてまで規定するものではない(「権限のある官庁の許可を受けない」紋章等の「・・・登録を拒絶し又は無効とし」とされていることの反対解釈として、それ以外の場合は当然に登録をしなければならない義務を本条約が締結国に課したと解することはできない。) から、そもそも同条に基づき、我が国が「権限のある官庁の許可」を受けた登録出願を拒絶してはならない義務を負うものではないし、同条を根拠として4条1項5号の適用範囲を狭めて「登録をしなければならない」ものと解釈されるべきものでもない。
コメント 本件事案では、商標法4条1項5号の適用範囲が争われた珍しい裁判例である。原告は、本願商標は「マレーシア国の法律に基づく政府機関であって、財産処分権限及び管理権限を有する」法人の本人出願である処、4条1項5号の規定は誤りで、パリ条約6条の3正文仏文上、「権限のある官庁の許可を受けた」商標には、商標法4条1項5号の適用はない旨主張したが、知財高裁はこの解釈を否定した。6条の3の規定では、「権限のある官庁の許可を受けずに」は使用禁止のみに限られている(6条の3(1)(a))。
被告特許庁長官は、いかなる者からの商標出願に対しても拒絶理由、無効事由とする旨を定めて、パリ条約6条の3に規定する監督用・証明用の記号・印章の公益性を重視し、手厚く保護しているから、4条1項5号は、パリ条約6条の3の義務を履行する正当な規定である旨反論していた。