(令和5年3月24日 東京地裁令和2年(ワ)第31524号「AirWair WITH Bouncing SOLES」事件)
事案の概要
本件は、原告が、被告に対し被告標章が付された被告商品1(靴)の販売等をした被告の行為が、原告の各商標権「Air Wair WITH Bouncing SOLES」(登録第6195751号 原告商標1右上掲図参照)「WITH BOUCING SOLES」(登録第6260709号 原告商標2)を侵害すると主張して、被告商品1の販売等の差止めを求めるとともに、原告が販売する靴製品の形態(下掲図左)は、原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されており、原告商品形態と実質的に同一の被告商品1及び被告商品2(下掲図右)の販売等については、不正競争防止法2条1項1号に該当すると主張して、被告各商品の販売差止め等を求めた事案である。裁判所は、被告商品1については商標権侵害を、被告商品2については不正競争防止法違反を判断した。
判 旨
原告商標1と被告標章対比部分は、外観、称呼及び観念において類似すると認められ、原告商標1と被告標章対比部分を含む被告標章とが同一又は類似の商品に使用された場合には、商品の出所について混同を生じるおそれがあるといえるから、両者は類似と認められる。また、被告商品1は、ブーツで、原告商標権1の指定商品に含まれる「履物」と同一と認められる。したがって、被告標章が付された被告商品1を販売等した被告の行為は、原告商標権1を侵害するというべきである。
(被告商品2にいて) 靴の外周に沿って、アッパーとウェルトを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出し、かつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるという原告商品の形態は、我が国において35年間近くの長期にわたり他の同種商品には見られない形態として原告によって継続的かつ独占的に使用されてきたことにより、革靴及びブーツに関心のある一般消費者において、原告の商品の出所を表示するものとして広く認識されていたこと、原告商品と被告商品2とは購買層や販売形態を共通にしていること、オンラインストアにおいて商品を購入しようとする者は、通常、販売者が予め記載及び掲載している商品名や商品写真といった限定的な情報からその商品の出所を識別すると考えられること・・・諸事情を総合考慮すると、需要者である一般消費者がオンラインストア掲載商品写真等を通じて原告商品の商品等表示に係る形態と類似する被告商品2の形態に接した場合には、両商品の出所が同一であると誤認するおそれがあると認めるのが相当である。したがって、被告による被告商品2の販売等は、原告の商品と混同を生じさせる行為に当たると認められる。
コメント
本件事案を裁判所は、被告販売の二種類の靴について、一つは付された文字商標から商標権侵害と、他方は靴の形状から不正競争防止法2条1項1号(周知表示混同惹起行為)違反として、原告の差止請求を認めたものである。文字商標についてはほぼ同一であり、靴の形状もそれに近い事例で、偽ブランド事件の類を窺わせる。そして、原告は、使用の差止めのみを請求し、損害賠償は求めていない。往時の欧州の有名ブランドメーカーの対応を思い起こさせる。これらの老舗は、商標、すなわち信用が化体したブランドを護れば足り、金銭は二の次としていたからである