2023-09-01

工藤莞司の注目裁判:引用商標について使用許諾に係る広義の混同を認めた事例

(令和5年7月19日 知財高裁令和4年(行ケ)第10035号 「GUZZILLA」事件)

事案の概要 原告(審判被請求人・商標権者)は、7類「パワーショベル用の破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等 のアタッチメント」を指定商品とする本件商標(右図参照・登録第6143667号)の商標権者である。被告は、引用商標「GODZILLA」に照らし、本件商標が法4条1項7号、15号及び19号に該当するとして、登録無効審判(無効2019-890064号)を請求した処、特許庁は成立審決をしたため、原告は、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。審決は、本件商標は法4条1項15号に該当するとした。怪獣映画に登場する怪獣「ゴジラ」は、被告によって創作されたものであり、「ゴジラ」は周知・著名で、被告はその欧文字表記の引用商標も用いている。

判 旨 「平成12年最判」(最高裁平成10年(行ヒ)第85号 同12年7月11日民集54巻6号1848頁)の「同一の表示による商品化事業を営むグループ」には、他人の表示を指定された商品に付し役務に用いるなどして商品の販売等の事業を営む他の営業主のように、他人の表示に係る使用許諾(ライセンス)契約を締結して事業を営む者をも含むと解すべきで、「誤信されるおそれがある商標」(広義の混同のおそれのある商標)には、使用許諾に係る他人の表示と同一ないし類似の商標であって、これが商品に付され又は役務に用いられることにより、他人の表示に関するライセンス契約を締結して事業を営むグループに属する関係にある複数の営業主のうちに、この同一ないし類似の商標を用いて事業を営む者に属する関係にあると誤信されるおそれがある商標を含むというべきである。
 被告は、産廃業、解体業及び建築業等の業種にも引用商標の使用を許諾するなどしているところ、これらは、本件商標の指定商品の取引者・需要者と同じかこれと近い分野ないし業態であり、本件商標の指定商品と共通する取引者・需要者も一定数存する。よって、本件商標の指定商品は、被告の業務に係る商品等と比較した場合、性質、用途又は目的において一定の関連性を有するものが含まれている。
 そうすると、本件商標の指定商品についても、本件商標を使用したときに、当該商品が被告又は被告との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるものが含まれる。よって、本件商標は、法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」のある商標である。

コメント 本件事案では、商標法4条1項15号の広義の混同の虞が争われて、知財高裁はこれを認めて、審決を支持したものである。特に、「平成12年最判」を引用し他人の表示に係る使用許諾(ライセンス)契約を締結して事業を営む者をも含むと解すべきとして、被告の使用許諾の下でのライセンシーの使用との関係での混同の虞を認めたことは、当然ではあるが最初の例だろう。そして、本件指定商品と被告ライセンス商品や役務との関係からは、混同の虞は正当な判断となろう。
 因みに判決引用の「平成12年最判」とは、レール・デュタン最高裁判例で、商標法4条1項15号の出所の混同の虞には広義の混同を含み、混同の虞は商標の類似性の程度や周知著名性、独創性などについて総合的に判断する旨判示した判例である。