2023-10-16

工藤莞司の注目裁判:商標法3条1項3号違反に係る無効不成立審決が取り消された事例

(令和5年9月7日 知財高裁令和5年(行ケ)第10030号 「くるんっと前髪事件」)

事案の概要 原告(審判請求人)は、被告(審判被請求人・商標権者)が有する登録商標「くるんっと前髪カーラー」(標準文字・登録第6399042号)、指定商品 26類「頭飾品、ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」とする本件商標の登録に対し、商標法3条1項3号等違反を理由として、指定商品中「ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」について登録無効の審判(2022-890041)を請求した処、特許庁は不成立の審決をしたため、原告は、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて訴えを提起した事案である。

判 旨 本件査定日当時、被告商品(証拠略)及び商品名を「前髪くるんとカーラー」とする原告の商品(証拠略)を除くほか、「くるんっと前髪カーラー」の語句又はこれに準ずる語句を本件商品について用いる例の証拠がないことを考慮しても、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、通常、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味するものと認識すると認めるのが相当である。被告は、本件査定日当時、被告商品の品質、効能等をうたう宣伝文句として、「くるんっとカールした前髪ができちゃう!」及び「くるんっと内側にカールした前髪をセットするためのカーラーを考えました」との文言を用いていた事実が認められるが、これは、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等において、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」などを意味するものと認識したとの上記認定に符合するものである。
 前記のとおり、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味すると認識することになるところ、「カーラー」は、「頭髪を巻き付けてカールさせるための円筒形の用具」であるから、「くるんっと前髪カーラー」の語句は、単に本件商品(電気式のものを除くヘアカーラー)の効能等を述べたものにすぎない。また、本件商標は、標準文字表示あって、本件商品の効能等を普通に用いられる方法で表示するものである。したがって、本件商標は、本件商品の品質、効能等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に掲げる商標に該当する。

コメント 本件事案では、本件商標の商標法3条1項3号該当性について争われ、審決は否定したが、知財高裁判決では、これを認めて審決を取り消した事例である。本件商標「くるんっと前髪カーラー」は無効請求指定商品「ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」の品質、効能を具体的に表示したものではないとの審決の判断に対し、知財高裁は、辞典、使用例を踏まえ、指定商品「カーラー」は「頭髪を巻き付けてカールさせるための円筒形の用具」であるとして、指定商品の品質、効能表示と判断している。両当事者の使用例も参酌している。知財高裁の認定判断の方が、説得力があろう。