2023-11-10

工藤莞司の注目裁判:原告登録商標と被告イラスト図形商標が外観類似として侵害請求が認められた事例

(令和5年9月29日 東京地裁令和3年(ワ)第10991号 「イラスト図形商標侵害事件」)

事案の概要 本件は、原告が、被告に対し、被告販売のTシャツに付したイラスト(「被告標章」右掲図)が、原告商標権(登録第5820024号下掲図)を侵害しているとして、商標法基づき被告販売のTシャツに被告イラストを付すこと、そのTシャツの譲渡等の差止め及び被告製品の廃棄、被告イスト画像データの削除並びに損害金、逸失利益等の支払を求めた事案である。
 著作権法に基づく請求も一部認容されたが省略。

判 旨 商標の類否判断は、対比する両商標を時と所を異にして離隔的に観察する場合に混同を生じるかどうかによるべきであるところ、これを前提に検討すると、原告商標と被告標章の絵柄部分は、女性の靴の形状、靴、ビキニ及びビーチマットの色並びに膝から下の脚の角度が違うとの相違点があるものの、いずれも、黒色のサングラスをかけ、靴を履いたビキニ姿の女性が、水の上に浮かぶビーチマットの上にうつ伏せで寝そべり、膝から下の脚を背部に向けて折り曲げて、頭部は画面奥に向く体勢をとっている点で共通し、需要者に対して共通の印象を与えるといえるから、外観は類似しているといえる。また、前記で説示したとおり、原告商標と被告商標の絵柄部分の観念は、いずれも「水の上に浮かぶビーチマットに寝そべる女性」であって、同一である。 以上を総合して全体的に考察すると、原告商標と被告標章との間において誤認混同のおそれがあるといえる。
 原告の損害額は、90万6991円となる。本件において、原告の商標権侵害による損害額が著作権等侵害による損害額よりも多額になると認めるに足りる事情は認められない。商標法に基づく差止請求は、被告が販売するTシャツに被告標章を付し、又は被告標章を付したTシャツを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示することの差止め、被告製品及び被告標章の画像データの廃棄の限度で理由がある

コメント 本件事案は、Tシャツに付した被告イラスト商標と原告商標の類否が争われ、外観類似とされた事例である。被告イラスト商標には、文字部分もあるが分離観察、そして、原告登録商標との外観類似の判断には、特段問題はない。被告は、商標的使用には当たらない旨抗弁した(商標法26条1項6号)が、斥けられた。
 商標権侵害が認められたが、損害賠償については、損害額が著作権等侵害による損害額(約90万円)を上回ると認めるに足る事情は認められないとされた。使用の差止めとして、被告製品及び被告標章の画像データの廃棄も認められた。
 被告イラストは、商標権侵害とともに、著作権侵害も認められた。独自創作であれば著作権侵害には当たらないが、被告イラストは原告イラストに依拠して作成されたと認められた。