2023-12-11

工藤莞司の注目裁判:在庫商品の販売は被告商標権の侵害に当たるとされた事例

(令和5年3月27日 東京地裁令和4年(ワ)第18610号 控訴棄却令和5年11月1日 知財高裁令和5年(ネ)第10044号 商標権に基づく差止請求権不存在確認請求事件)

事案の概要

 本件は、原告(破産管財人)が、本件商標(右掲参照)に係る商標権者の被告に対し、原告が本件在庫商品に本件商標を付したものを販売することは、被告の商標権を侵害するものではないと主張して、被告が原告に対して本件商標権に基づき本件在庫商品の販売を差し止める権利を有しないことの確認を求めた事案である。一審で棄却されて、知財高裁へ控訴したが、一審と同旨の判決となった。

判 旨
 破産会社は、商標権者被告との間で、本件商標権の通常使用権を許諾する旨の本件使用許諾契約を締結し、本件在庫商品に本件商標を付したが、その後、被告との間で、本件使用許諾契約を解約し、本件各解約日から6か月間、本件各解約日時点に現存する在庫を販売する限りにおいて、引き続き本件商標を使用することができる旨の本件解約合意を締結し、上記6か月間は既に経過した。したがって、原告が、今後、本件商標を付した本件在庫商品を販売すれば、本件商標を使用することにつき被告の許諾がないから、被告の本件商標権を侵害すると認められる(商標法25条、2条3項2号)。
 これに対して、原告は、本件には平成15年最判(最高裁平成14年(受)第11号 同15年2月27日判決・ 民集57巻2号125頁)の射程が及び、原告が本件在庫商品を販売することは、本件商標の出所表示機能及び品質保証機能を害するものではなく、商標権侵害の実質的違法性を欠くと主張する。通常使用権の範囲、期間、条件等は使用許諾契約により定められることになるが、本件使用許諾契約は既に効力を失っており、在庫商品について例外的に本件商標の使用許諾期間も既に経過しているから、本件使用許諾契約が有効である間に本件商標が付された商品であっても、今後、これを販売することは、本件使用許諾契約及び本件解約合意に違反する。そうすると、現時点において、通常使用権者であった破産会社の地位を承継した原告が、商標権者被告に対し、本件商標を付した本件在庫商品を販売することは実質的違法性を欠くなどと主張し得ない。
 平成15年最判はいわゆる並行輸入の違法性が争われた事件に関する判断であるのに対して、本件は、かつて商標の使用を許諾されていた者自身の行為の違法性が問われているから、事案を異にする。

コメント 
 本件事案は、通常使用権許諾契約の解約後で、その後使用が許容された期間経過後の在庫商品への被告登録商標の使用に係るもので、裁判所は、既に原告側は使用権限を失い侵害になると判断したもので、控訴審も同旨の判断で、同じ結論である。
 原告が持ち出したフレッドペリー真正品の並行輸入に係る判例(最高裁平成14年(受)第11号 同15年2月27日判決・ 民集57巻2号125頁)は事案が異なるとされた。正当である。