2024-02-26

工藤莞司の注目裁判:外観非類似をもって侵害請求を棄却した事例

(令和5年12月26日 知財高裁令和5年(ネ)第10011号 「バレナイ二重事件」 原審・令和 4 年 12 月 22 日 東京地裁令和3年(ワ)第33526号)

事案の概要 本件は、本件商標権1(「バレないふたえ」標準文字 登録第5648844号 3類、5類)、本件商標権2「バレない/ふたえ」(登録第5607340号3類、5類)を有する原告が、被告が被告標章「バレナイ/二重」(右掲図参照)を包装に付した被告商品「二重瞼形成用化粧品等」を製造、販売等する行為が本件商標権を侵害すると主張して、被告に対し、被告商品の販売、展示の差止及び廃棄、損害賠償、信用回復措置の請求をした事案で、一審では請求棄却されたため、原告が控訴した事案である。

判 旨 本件商標と被告標章の類否 本件商標2と被告標章について 本件商標2の中で看者の注意をより強く引く部分である「ふたえ」 の文字列とこれに対応する被告標章の下段である「二重」の文字列は、単に仮名の文字種(平仮名か片仮名か)において相違するだけではなく、仮名と漢字という文字種についてのより大きな相違を有すること、両商標の上段についても、本件商標2の上段の「バレない」の後半2文字が平仮名であることにより、4文字の全てが 片仮名である被告標章の上段の「バレナイ」と比較してより柔らかい印象を与えること、本件商標2の上下段の各文字列の幅が僅かに異なる程度であるのに対し、被告標章の上段の文字列全体の横幅は、下段の文字列全体の横幅の1.5倍程度であり、その結果、本件商標2の各文字が比較的まとまった印象を与えるのに対し、被告標章の各文字は、ややばらばらの印象を与えること、・・・本件商標2と被告標章の差異を併せ考慮すると、本件化粧品について使用される本件商標2と被告標章は、需要者にとって、外観において相紛らわしくない程度に相違すると評価するのが相当である。
 本件商標1と被告標章について 本件商標1と被告標章との間には、前記の「ふたえ」と「二重」の相違、「バレない」と「バレナイ」の相違等に加え、本件商標1が「バレないふたえ」を標準文字でなるのに対し、被告標章は、「バレナイ」の文字列及び「二重」の文字列を上下2段に配してなるとの差異がある。これらの事情を踏まえ、前記説示に照らすと、本件商標1と被告標章は、需要者にとって、外観において相紛らわしくない程度に相違すると評価するのが相当である。
 以上によると、本件商標と被告標章は、称呼及び観念をいずれも同一にする一方、これらの外観は、看者である本件化粧品の需要者にとって相紛らわしくない程度に相違するところ、前記説示も踏まえ、これらの事情を総合して全体的に考察すると、本件商標と被告標章については、これらが同一の商品(本件化粧品)について使用された場合であっても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできないから、少なくとも本件化粧品に使用される限りにおいては、被告標章は、本件商標に類似するとはいえないと評価するのが相当である。

コメント 本件事案では、控訴審の知財高裁は、文字商標について外観非類似のみで商標非類似と判断して、侵害請求を棄却したもので、結論は一審判決と同様である。称呼及び観念同一なのに、何故全体として非類似なのか理由が明確ではない。離隔観察したのかも見えない。
 一審判決の、被告商標は、被告商品の効能等の説明ないしキャッチフレーズとして理解され、自他商品識別又は出所識別標識としての機能を有するとは認められない(26条1項6号)との判断は、より妥当と思われる。本控訴審判決が、何故、この理由を変更したかも不明である。