2024-03-05

工藤莞司の注目裁判:不正競争防止法2条1項1号上書籍の形態が争われて棄却された事例

(令和 6 年 1 月 30 日 東京地裁令和 5 年(ワ)第 70276 号 書籍の形態事件)

本件事案 本件は、原告書籍を製造、販売する出版社の原告が、被告が製造、販売等する被告書籍は、原告の周知の商品等表示である原告表示を使用するもので、これを製造、販売等する行為は、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して、被告に対し被告書籍の製造等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めた事案である。
 原告の表示については、「表紙の題号、色、イラスト、コメント及びインターネット上で試し読みできる範囲での書籍本文の体裁の組合せからなる原告書籍の形態」と主張している。

判 旨 「商品等表示」とは、「商品の形態は、商標等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合があるところ、このように商品の形態自体が「商品等表示」に該当するためには、商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており (特別顕著性)、かつ、その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態 を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要すると解する。
 ・・・の事情を総合的に考慮すると、原告書籍については、仮に原告主張のとおりシリーズ累計発行部数が 46 万部であったとしても、その需要者が広くノンフィクション・エッセイに関心を有する者であることをも踏まえると、原告書籍それ自体が周知といえるほどの販売実績があるとまではいい難い。その販売期間はシリーズを通算しても 4 年半程度に過ぎず、原告表示につき原告によって長期間独占的に使用されたものとは認められない。また、その宣伝広告の実情等をみても、極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者で あるノンフィクション・エッセイに関心を有する者において、原告表示をもって、これを有する原告書籍の出所が特定の事業者である原告(ないし「原告書籍の発行者」)であることを表示するものとして周知になっていたとは認められない。以上より、原告表示は、一般消費者にとって、原告書籍の出所として原告を表示 するものとして周知になっているものとはいえないから、「商品等表示」に該当するとはいえず、また、「需要者の間に広く認識されている」ということもできない。

コメント 本件事案では、書籍自体の形状が不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当するかが争われたもので、裁判所は、従来からの裁判例(「PTPシート・カプセル配色事件」平成18年1月18日 東京地裁平成17年(ワ)第5651号外)と同様、特別顕著性及び周知性を要すると解して、使用による出所表示機能の獲得を求め、原告商品等表示について、原告提出の証拠に基づいて事実認定をしたが、これらを否定した。原告主張の表示は、「表紙の題号、色、イラスト、コメント及びインターネット上で試し読みできる範囲での書籍本文の体裁の組合せからなる原告書籍の形態」というのであるから、これらが当該書籍の販売を通じて、出所表示機能を獲得し需要者間に周知に至るのは極めて困難であろう。