2024-03-19

工藤莞司の注目裁判:衛生マスクに使用した「お年賀マスク」について争われ侵害請求が認められた事例

(令和6年1月26日 東京地裁令和3年(ワ)第16043号「お年賀マスク」事件)

 本件事案 本件は、商標権を有する原告が、衛生マスクを販売していた被告に対し、被告製品の包装に被告標章(右図参照)を付すことが、商標権を侵害し、 原告はその販売により損害を被ったと主張して、損害賠償等を求めた事案である。原告の商標権は、商標登録第5322812号、 登録商標 「お年賀マスク(標準文字)」 5類指定商品 衛生マスクである。

 判 旨 本件商標と被告標章について、外観は、本件商標は「お年賀マスク」(標準文字)であり、被告標章は太く黒い筆文字の「お年賀マスク」というもので、類似し、称呼は、「オネンガマスク」で同一であり、観念も、同一である。本件商標と被告標章の出所の混同を否定するような取引の実情は存在せず、本件商標と被告標章は類似する。また、被告商品は、本件商標の指定商品である衛生マスクである。                 
(被告の抗弁1.商標的使用か否か) 「年賀」については、新年に渡す贈答品を指す語としてある程度定着し、「お年賀タオル」と呼ばれることもあったが、従来、新年の贈答品としてマスクを渡すことはあまりなく、令和2年の半ばから令和3年ごろ(引用者注被告の使用時期・以下同じ)、「お年賀マスク」の語字体が、普通名称となっていたとは認められない。また、令和2年の半ばから令和3年にかけて、「お年賀マスク」との語が使われた場合、それは新しい語であるとの印象を与えるものと認められる。そして、被告標章は、被告商品の包装箱において、その記載態様(太く黒い筆文字)や位置に照らし、他の部分とは区別してそれ自体でかなり目立つように記載されている。「お年賀マスク」についての当時の認識に被告商品における被告標章の使用態様等を総合的に考慮すると、令和2年8月から令和3年1月頃、被告商品の包装箱における被告標章が、需要者に何人かの業務に係る商品であることが認識できる態様により使用されていない商標であったとは認められない。                                      (被告の抗弁2.用途表示か否か) 被告標章の使用態様からすると、商品の用途としての普通に用いられる方法とも認められない。                                        (被告の抗弁3.普通名称か否か) 本件商標の登録査定時において、「お年賀マスク」が商品の普通名称であったとは認められない。したがって、本件商標は、無効審判により無効とされるべきである旨の被告の主張には理由がない。

 コメント 本件侵害訴訟においては、被告は、被告使用態様は商標的使用ではないと抗弁(26条1項6号)し、商標権の効力が及ばない用途表示(26条1項2号)と、また無効事由存在の抗弁(39条・特許法104条の3第1項)し争ったがいずれも斥けられた。造語ではないが、年賀用のマスクの実際の取引は認定されていない。そして、請求額の30分の1程度の賠償金が命ぜられた。使用前に、登録商標検索の重要性を示している。