2024-04-16

工藤莞司の注目裁判:被告の抗弁を全て斥け、侵害請求が認められた事例

(令和5年8月24日 東京地裁令和4年(ワ)第19876号 控訴審令和6年3月6日 知財高裁令和5年(ネ)第10091号 「現代の理論」侵害事件)

 事案の概要 本件は、下掲の各登録商標の商標権者である原告が、被告標章「現代の理論」を付した各出版物の出版、販売等を行う被告らの行為は本件各商標権を侵害する旨を主張して、被告らに対し、本件各商標権に基づき上記各行為の差止め及び廃棄を求めると共に、損害賠償等の支払を求めた事案である。本件商標権1は、9類「電子印刷物」及び16類「印刷物」(不使用取消し審判で取消し確定)を指定商品とし、「現代の理論」を標準文字で表し、本件商標権2 は、16類「印刷物」を指定商品とし、「現代の理論」を標準文字で表してなる。

 判 旨 被告各出版物に被告各標章を付して使用する被告らの行為は、 指定商品に類似する商品についての登録商標に類似する商標の使用(本件商標1との関係)及び指定商品についての登録商標に類似する商標の使用(本件商標2との関係)に該当し、本件各商標権の侵害と見なされる(商標法(以下略)37条1号)。
 本件商標2に係る無効の抗弁(争点 3) 本件商標 2 の出願時及び登録査定時において、「現代の理論」の標章は、被告NPO の業務に係る商品(「印刷物」)又は役務を表示するものとして、国内外の需要者の間に広く認識されていたとは認められない(この点は本件商標1の出願時及び登録査定時においても異ならない。)。そうである以上、本件商標2の登録は4条1項19号、4条1項10号、4条1項15号に違反するとはいえない。
 上記時点及びその後も被告各出版物が発行、販売されている状況を踏まえると、需要者の誤解を避けるためとみる余地が合理的かつ十分にあり得るのであって、少なくとも原告が紙媒体の雑誌を発行していないことは、原告がその意思も能力も有しないことを必ずしも意味しない。したがって、本件商標2の商標登録は3条柱書に違反するものとはいえない。
 被告 NPO は、平成28年2月に雑誌「現代の理論」デモ版を発行するまで、発行雑誌に「現代の理論」標章を使用しなかった。したがって、本件各商標のいずれとの関係においても、被告NPOは、先使用権(32条1項)を有しない。                  

 コメント 本件事案では、被告の抗弁の採否について争われた(39条・特104の3、32条)。本件商標2については、4条1項19号、10号、15号違反で登録無効の理由を有するとの抗弁は、その出願前の被告使用商標の周知性が否定され、いずれも斥けられた。先使用権の存在も同様である。3条1項柱書違反については、被告使用に対抗するための出願も使用意思ありへと原告事情を汲んだ判断が窺え、注目されよう。
 損害額について、原審東京地裁では、原告の損害額は17万5808円と認められるとされたが、控訴審では、第1審被告らは、第1審原告に対し連帯して24万8570円・・・金員を支払えと拡張請求が認容された。