英国では、いまだに多くの醸造所が未登録の権利とグッドウィル(信用や商品・サービスの品質などから生じる顧客吸引力)に依存している。このアプローチは機能し得る。なぜなら、パッシングオフ(詐称通用)は依然として有効な法理だからだ。しかし、それは迅速でも安価でもない。証人陳述書、取引履歴など大量の証拠を用意する必要があり、一見単純に思えた紛争が、突如として複雑で高額なプロジェクトへ変貌してしまうことがある。
これに対して、商標登録は権利者にとって有利な立場を確保できる。なぜならば、ブランドが消費者によって認知され信頼されている理由を長々と説明する必要もなく、行使可能な実質的な権利を獲得することができるからだ。簡単に言えば、登録商標は「黙っていても通用する権利」だが、未登録の権利は「説明して初めて通用する権利」だ。
名称だけの問題ではない
商標が単に名称の問題に過ぎないと考えているのであれば、認識を改める必要がある。最近では、見た目が争点になることが珍しくない。配色、フォント、レイアウト、そして全体的な「雰囲気」までもが保護対象となり得る。特に伝統的なカスクビール(cask:樽の中で二次発酵・熟成させた生きたビール)の分野においては、伝統的なデザイン様式そのものが魅力の一部であるため、好むと好まざるとにかかわらず、デザインの重複が生じやすい。さらに缶や瓶に展開する場合には競合は一層激化する。スーパーマーケットの棚に並べば、他社の多くのデザインと隣り合わせになり、いずれもが他より目立とうと競い合う。そのような状況で類似性は極めて短期間で問題化する。
登録簿に載っている「幽霊」商標
英国の商標登録簿には、今日もはや使用されていない商標が多数存在するという厄介な制度上の特徴がある。「幽霊」商標である。醸造所が廃業したり、合併したり、またはブランド変更を行っても、商標だけが登録簿上に残り続けることが多くある。まるで、帰ると言ってから一時間経ってもまだバーの端に居座っている人物のように、だ。
もっとも、使用されていない商標は整理することもできる。不使用取消しは、英国知的財産庁において確立された手続である。しかしながら、適切に行わなければ、実質的な成果もないまま時間と費用を浪費するリスクもある。
醸造所がすべきこと
過度に劇的な対応は不要だが、少なくとも以下の対応は必要であろう。
* 中核となるブランドの商標登録を確実に行うこと
* 新たなビールの名称やデザインについて、缶などに使用する前に必ず調査、確認を行うこと
* 競合他社(必要なら競合しない会社も)の動向を常に監視すること
* 登録簿上の先行商標が絶対に手出しできないものと安易に考えないこと、また未登録商標が当然のごとく自社のものであると決めつけないこと
* 国外への展開も検討すること。輸出の好機が訪れた際に、自社ブランドが海外で使用可能であり、かつ現地登録によって保護が可能であることを担保する必要がある
* 何よりも重要なのは、これらを事業運営の一環として位置付けることだ
これらの対応を自ら行うことに負担を感じる場合、紛争対応、商標クリアランス、そして必要に応じて問題の拡大を未然に防ぐための協議を代理人と時間を割いて行うことを勧めたい。新規ブランドの立ち上げ、製品展開、あるいは現行の体制が法的審査に耐え得るかどうかの検討など、いずれの場合であっても、一度相談する価値は十分にある。
質の良いビールを楽しむことは誰もが好むことだが、あとで商標紛争を処理しなければならない状況に陥ることは、ビールを注いだ後になってそれが劣化していたと気付くようなものだ。事前確認を適切に行っていれば回避できたはずの事態である。
本文は こちら (Don’t let someone else pull your pint: Trade Marks for UK Breweries in 2026)
