ベトナムは、2025年改正知的財産法に整合させるべく、知的財産制度の整備を継続している。2026年3月31日、政府は知的財産法の施行細則を定める政令65/2023/ND-CP(政令65)を大幅に改正する政令100/2026/ND-CP(政令100)を公布した。同日、科学技術省は手続の詳細及び新様式を定める通達10/2026/TT-BKHCN(通達10)を発出した。これらはいずれも、改正知的財産法と同様に2026年4月1日に施行された。
これらの改正はすべての知的財産権に及ぶものであるが、とりわけ商標権者及びブランド戦略担当者にとっては、出願戦略、審査期間、ポートフォリオ管理及び権利行使などに直接影響を及ぼす、実務的かつ将来志向の変更が複数含まれている。
1. 要件を充たす出願に対する早期審査制度
最もビジネスフレンドリーな新機軸の一つは、一定の適格要件を満たす出願について、実体審査の早期審査制度が導入された点である。これにより、早期審査制度の適用を受ける出願については、実体審査期間が3か月に短縮される。これは、特にテクノロジー主導型又は規制産業に属するブランドにとって、競争上の優位性をもたらす。
もっとも、優先権出願において、商標が先に出願された他人の商標出願と同一又は類似であり、かつ先願が未処理である場合には、早期審査は通常審査に戻される。他方で、識別力欠如や、他人の著作権・商号・意匠との混同惹起等の他の理由に基づく拒絶理由通知がなされた場合における取扱いについては、本改正では明示されていない。
2. AI生成商標に対する明確な保護ルートの確立
政令100は、知的財産の創作における人工知能(AI)の利用を明示的に取り扱い、政令65第10a条を改正して、AIシステムを用いて生成された商標も、登録要件を満たす限り完全に保護対象となることを確認した。特許や意匠とは異なり、「人間による創作性」といった追加的要件は課されない。
もっとも、生成AIツールを用いるブランド所有者に対しては、後日の権利行使において争われた場合に備え、商標の選択、精緻化及び最終決定における自らの関与を記録化しておくことが推奨されている。
3. デジタル・ファースト手続、方式審査の簡素化、応答期限の短縮
新規則は、電子出願が原則となり、紙媒体と同等の法的効力を有することを明確化した。すべての公式通知(審査通知、異議申立、決定等)は、紙による交付を請求しない限り電子的に発行され、知的財産手続のデジタル化が進展する。
通達10に基づく重要な変更として、審査及び応答期限の短縮が挙げられる。
方式審査完了後、不適合出願については拒絶決定が発せられる。他方、方式要件を満たす出願については、従来の方式審査受理決定は発行されず、直ちに公告手続へ移行する。
知的財産庁は毎週、公告手続へ移行した出願の一覧を公式ポータルに掲載し、出願番号、出願日及び公告移行日を明示する。出願は受理後直ちに公開され、知的財産公報での正式公告前であっても、WIPO Publish等のプラットフォーム上で公開される。
実体審査における拒絶理由通知(暫定拒絶)への応答期限は、従来の3か月から2か月へ短縮された。同様に、登録料納付期限も2か月に短縮された。
ベトナムを指定国とするマドリッド国際登録については、暫定拒絶への応答期限は引き続き3か月とされる。転換手続及び事後指定に関する手続は、国内制度と完全に整合化されている。
4. 商標出願手続の透明性の向上
通達10は、複数の改善措置により、商標出願手続の透明性及び効率性を大幅に向上させている。
* 出願様式を変更:各記載欄が明確化され、処理の迅速化及び誤記の減少に資する。
* 優先権証明書類の柔軟化:最初の出願の写しで足りるものとされ、実務上はEUや米国データベースからの出力でも足りる場合が多く、認証謄本は原則として厳格には要求されない。優先権書類が未提出の場合には、補充後又は3か月経過後に方式審査が開始される。
* 色彩の主張:特定の色彩保護を主張しない場合、見本は白黒で提出しなければならない。
* 自発的な権利放棄:識別力のない部分について、出願人は出願時に自発的に権利不要求(ディスクレーム)を行うことができる。
5. 商標審査の透明性及び判断基準の明確化
通達10は、識別力、類否判断(混同のおそれ)、記述的表現及び周知性の認定に関する判断基準を明確化し、特に識別性がないとされる場合の具体例を示している(音商標を含む)。
音商標に言語的要素が含まれる場合、その言語的要素については文字商標と同様の基準で識別力が判断される。また、音商標における混同のおそれの判断基準についても明確に定義されている。
さらに、「Vietnam」を意味する要素(「Việt」「Viet」「Việt Nam」「Vietnam」等)は、原則として通常の商標としては登録不可であり、例外的に証明標章又は団体商標の場合、又はセカンダリー・ミーニングを獲得している場合に限り保護され得る。
6. 異議申立、取消し、悪意
異議申立期間は公開後3か月に短縮され、第三者による意見提出手続も簡素化された。
特に重要な改正として、悪意による取消しに関する規定が大幅に改正された。「悪意」は以下のように明確に定義された。
* ベトナム国内で既に使用されている他人の商標と同一又は混同を生じさせる類似商標を、大量に出願し、その量が通常の事業能力を超え、かつ真正な使用意思を裏付ける証拠を欠く場合
* ベトナムの関連需要者に認識されている商標又は外国における周知商標と同一又は類似の商標を、当該商標の信用に便乗して利益を得る目的、登録の売却・ライセンス・譲渡目的、市場参入阻止・競争制限目的、又は健全な商取引慣行に反する行為を行う目的で出願する場合
7. 不使用取消し回避のための商標使用に関する新規定
通達10は、「真正な使用」の基準及び不使用取消請求に対抗するために必要な証拠を明確化している。
すなわち、使用は取消請求前5年間において、登録指定商品・役務について、ベトナム市場において継続的かつ商業的性質を有し、公衆に認識可能な形で行われる必要がある。名目的使用、内部使用、又は需要者に到達しない使用は、原則として足りないとされる。
8. 登録証、謄本及び記録制度の改正
登録証の発行及び管理は合理化され、電子登録証が重視される一方で、申請により紙媒体の取得も可能とされる。
また、認証謄本又は写しの取得手続に関する要件が明確化され、迅速かつ簡便な取得が可能となった。さらに、記録制度も近代化され、譲渡、ライセンス、名称・住所変更その他の登録事項変更について、より柔軟かつ詳細な指針が示され、多くの場合において必要書類も簡素化されている。
展望
2026年のベトナム知的財産制度の改正は、近代化、行政手続の簡素化、審査期間の短縮及び国際的整合性の確保に対する強いコミットメントを示すものである。これにより、商標保護の予見可能性及び効率性は向上する一方で、ブランド所有者にはより迅速かつ的確な対応が求められる新たなコンプライアンス要件も導入されている。
ベトナム市場において重要なブランド展開を行う企業は、早期審査適格性、優先権主張の適否、新たな方式要件及び短縮された期限への適合性について、自社ポートフォリオの見直しを行うべきである。
本文は こちら (Vietnam’s Trademark Landscape Gets a Modern Overhaul)
