(令和8年3月18日 東京地裁令和7年(ワ)第70146号 「関ケ原検定」設定登録前の金銭的請求事件)

事案の概要
本件は、原告商標登録第6504908号(右掲図参照)他2件に係る商標権を有する原告が、原告各商標の登録出願後に警告書を送付したにもかかわらず、被告らが無断で原告各商標を使用した旨主張して、被告らに対し、①商標法36条に基づき、原告各商標を付した物品の頒布の差止め及び同物品の廃棄並びに原告各商標を使用した事業の差止めを求めるとともに、②商標法13条の2に基づき、損失相当額105万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。原告は一級建築士の資格を持つデザイナーで、被告関ケ原町は公共団体であって関ケ原検定と称する事業の実施主体で、被告Bⅰは被告関ケ原町の町長、被告Cⅰ及び被告Dⅰは被告関ケ原町の職員で、関ケ原検定事業の担当者である。
判 旨
商標法13条の2の要件該当性の有無 ア 商標法13条の2の警告は、出願に係る商標の使用をした者に対してする必要があるところ、被告関ケ原町以外の被告らについては、関ケ原検定事業の主体であることを認めるに足りる証拠はない。そして、本件警告書の名宛人は、被告関ケ原町における関ケ原検定事業の担当者である被告Dⅰ及び被告Cⅰであり、また、上記⑴の認定事実によれば、本件警告書には、被告Dⅰ及び被告Cⅰの本件警告書による対応次第では、被告関ケ原町の代表者である被告Bⅰに対し、「知的財産権侵害の事実」を通知する旨の記載があること、換言すれば、本件警告書は、関ケ原検定事業の担当者である被告Dⅰ及び被告Cⅰにおいて、本件警告書に記載された対応をすることを求める趣旨にとどまり、これをもって直ちに被告関ケ原町ないしその代表者である被告Bⅰに対して警告を発する趣旨のものではなかったことが認められる。そうすると、本件警告書に基づく警告は、関ケ原検定事業の主体である被告関ケ原町に対して向けられたものであると認めることはできず、商標法13条の2所定の要件を満たすものということはできない。イ また、以上の点をおくとしても、上記⑴の認定事実によれば、本件警告書には、「関ケ原検定(セキケン)」及び「合戦士」の商標登録を得ている旨の記載は存在するものの、当該記載が原告各商標に係る商標登録出願の内容である旨の記載や、商標登録出願において記載が求められる内容(登録を受けようとする商標や指定商品又は指定役務(商標法5条1項参照))に係る記載はないことが認められる。そして、本件警告書における商標に係る記載内容と原告各商標の内容は明らかに異なるから、これを受領した者において、本件警告書が、出願中の原告各商標についてその使用を警告するものと理解することはできないというべきである。そうすると、本件警告書における上記記載をもって、原告各商標につき具体的な商標登録出願に係る内容が記載されていると認めることはできず、その意味においても、本件警告書に基づく警告が商標法13条の2所定の要件を満たすものであるということはできない。
原告は、被告らが、令和2年12月から令和3年8月までの間、原告に無断で原告各商標を関ケ原検定事業に使用したから、被告らは原告各商標権を侵害し、また、今後も侵害するおそれがある旨主張する。しかしながら、当該使用は、いずれも原告各商標権の設定登録前の使用であることが明らかである。したがって、当該主張に基づき被告関ケ原町が原告各商標権を侵害したと認めることはできない。被告関ケ原町以外の被告らについては、関ケ原検定事業の主体であることを認めるに足りる証拠はなく、そうである以上、同被告らが原告各商標権を侵害し、又は侵害するおそれがあると認めることはできない。
コメント
本件は、商標権設定前の金銭的請求が争われた事例で、原告警告書の記載要件が不備で棄却された事例である。平成11年の改正(法律第41号)で、マドリッド協定議定書4条(1)(a)に規定する国内登録の効力に関する国際登録日からの保護と整合させるため、商標登録出願から設定登録前までの使用を通じて獲得した出願人の業務上の信用を保護することとして、出願商標及び指定商品・役務を使用している者に対しては、出願の内容の警告を条件として、その使用により生じた業務上の損失に相当する金額を請求する権利を認めたものである(商標法13条の2)。原告警告書には、出願の内容(商標、指定役務)の記載がなかったのである。商標法13条の2の商標権設定前の金銭的請求について争われた事例は稀有な例である。
