2026年3月、ベトナム知的財産庁は、主に著作権を根拠とする異議申立てを審理した結果、商標出願を拒絶する決定を下した。異議申立てが提起された当時、この外国ブランド所有者はベトナム国内に商標登録も出願も有しておらず、また、ベトナム知的財産庁はこれまで著作権に依拠した異議申立てに対して厳格なアプローチをとってきたことから、この結果は注目に値する。
異議申立ての概要
「Maurten」は、胃に負担をかけずに大量のエネルギーを補給できる「ハイドロゲル技術」で世界的に知られるスウェーデンのスポーツ栄養ブランドだ。このブランドの特徴的なロゴは、すっきりとしたラインと大胆な白黒の配色を特徴としており、長年にわたり高性能スポーツ栄養ドリンクを象徴する標識として使用されてきた。

2023年、ベトナムのある個人が、これと同一の標章の登録出願(出願番号:4-2023-38668)を行った。これは、ベトナムにおいて商標冒認出願として見られる行為である。ブランド所有者は、出願商標に対する異議を申立てるため、Tilleke & Gibbinsが依頼を受けた。
当時、Maurtenはベトナム国内に商標権を有しておらず、またベトナム国内における実質的な使用実績もなかった。さらに、世界的なマーケティングデータを見ても、現地に事業拠点等はなく、限定的な売上を示すにとどまっていた。したがって、冒認出願を拒絶するよう知的財産庁を説得するにあたり、商標権や使用の証拠に依拠するのではなく、ロゴ自体の著作権保護に焦点を当てた異議申立て戦略が採られた。ベトナムにおいては、著作権は著作物の創作時に自動的に発生し、登録を要しないためである。(ただし、知的財産庁は伝統的に、商標出願を拒絶する根拠として著作権を認めることに対して慎重であった)
2024年9月24日、混同を生じさせる類似性、美術著作物に係る著作権侵害、出願人の悪意の3点を主な根拠に異議申立てが行われた。しかし、主たる論点は著作権であり、2022年の知的財産法改正で新設された第73条第7項(著作物の複製物を含む標章は、当該著作物の所有者の許諾がある場合を除き、商標として保護されない)の規定を活用した。
異議申立書には、両商標のデザイン要素、曲線部分、全体的な視覚的要素が完全に一致していることを示す対比資料が含まれていた。また、当該ロゴが著作権法上の保護対象である応用美術著作物に該当することを立証することに、特に注力がなされた。
約17ヶ月の審査期間を経て、2026年3月9日、知的財産庁は異議申立人の著作権に関する主張を全面的に認め、出願商標の登録を拒絶した。
ブランド所有者への重要な示唆
本決定は、外国のブランド所有者がベトナム国内において事前に商標登録を確保していない場合にも、特徴的なロゴやデザイン要素を保護するための実務上有効な手段を示したものといえる。また、適切な証拠とともに的確な主張を展開すれば、従来の商標法上の要件を欠く事案であっても、ベトナムの知的財産制度が悪意の商標出願に対して実効的な保護を提供し得ることを裏付けている。
本件から得られる主な教訓は以下の通り;
実効的な盾としての著作権:特徴的なロゴやグラフィック要素は、ベトナムにおいて著作権による保護を自動的に享受できる。適切な事案においては、商標権、著作権登録証明書、国内での使用証拠が存在しない場合であっても、著作権を根拠として、同一または実質的に類似する図形商標の商標登録を阻止することに成功し得る。
ウォッチングの重要性:(2026年4月1日より施行された法改正により)公告日から3ヶ月という新たな異議申立て期間の制限に鑑み、商標登録を有していないブランド所有者も、冒認出願を適時に発見して異議を申し立てるため、警戒を怠らず商標ウォッチングサービスを行うべきである。
戦略的な証拠収集:保護対象となる美術の著作物に着目し、明確な視覚的対比によってこれを裏付ける手法は、極めて高い説得力を持ち得る。さらに、出願人の悪意を示す証拠を提出することにより、全体としての主張の強度をさらに高めることができる。
複数根拠による異議申立て:本決定は主に著作権を根拠として下されたものであるが、周知性や悪意といった追加の根拠を併せて主張することには重要な意義がある。
本文は こちら (Copyright as an Effective Tool in Trademark Opposition: A Recent Success in Vietnam)
