2026-06-18

マレーシア:色彩に関する商標法上の教訓、赤くなったWhatsApp - Marks & Clerk

英国プレミアリーグに所属するアーセナル・フットボール・クラブが2025/2026シーズンの優勝を果たしたことを受け、世界中のサポーター、企業ブランドおよびオンライン・コミュニティによる祝福の投稿がソーシャルメディア上にあふれた。

その中でも特に注目を集めたブランド上の出来事の一つは、世界中で利用されているメッセージングアプリ、WhatsAppが、おなじみの緑色のソーシャルメディア用ロゴを、一時的にアーセナルのチームカラーである赤色に変更したと報じられたことである。

一見すると、これは大きなスポーツ上の偉業を祝う、機知に富んだ時宜を得た演出にすぎないように見える。しかし、ブランディングおよび商標の観点からは、この事例は、消費者がブランドを認識し記憶する際に、色彩が重要な役割を果たし得ることを改めて想起させる有益な例でもある。

ブランディングにおいて、色彩が偶然に選ばれることなどまずないだろう。
多くの企業にとって、色彩は商業上のアイデンティティの一部を構成している。特定の色調や色彩の組合せなどの視覚的表現は、市場において長期間にわたり一貫して反復的に使用されることによって、特定のブランドと強く結び付けられるようになることがある。多くの消費者がWhatsAppと緑色を結び付けて認識するのと同様に、アーセナルは赤色と強く結び付けられている。
このことは、マレーシア商標法の観点から、いくつかの実務上の論点を提起する。

色彩と保護範囲
マレーシアにおいては、色彩について何らかの主張なしに商標登録がなされた場合、商標は原則としてすべての色彩について登録されたものとみなされる。
この取扱いにより、ブランドオーナーは一定程度の柔軟性を得ることができる。特に、ロゴが異なるキャンペーン、プラットフォーム、包装形態または販促資料において使用される場合には有用である。

もっとも、特定の色彩がブランド・アイデンティティの重要な構成要素である場合には、商標の出願戦略を慎重に検討すべきである。場合によっては、商標を白黒で保護することが商業的に合理的であることもある。他方で、色彩そのものの表現がブランド上重要な意味を有する場合には、色彩付きの商標についても併せて保護を取得することが有益である場合もある。

すべてのブランドに一律に適用される唯一の正解は存在しない。適切な戦略は、商標がどのように使用されているか、消費者がどのようにそれを認識しているか、そして権利者がどのように権利行使を行うことを予見しているかによって決まる。

市場における使用実態の重要性
商標登録は重要であるが、実際の使用も依然として極めて重要な意味を有する。
アプリケーション、ウェブサイト、包装、広告、店舗外観、ソーシャルメディアのページおよびデジタル・キャンペーンにおいて商標がどのように表示されるかは、消費者によるブランド認識に影響を与える可能性がある。

そのため、多くの商標案件において使用証拠が重要となる。使用証拠は、周知性や獲得した識別力の立証、権利行使の裏付け、拒絶理由への対応、あるいは特定の標章が特定事業者と結び付けて認識されるようになったことの証明に役立つことがある。 
したがって、特定の色彩表現を長期間にわたり一貫して使用することは、ブランドの形成過程全体を語る上で重要な要素となり得る。

管理された変更は計画的に
今日のブランド運営は極めて迅速に展開される。文化的出来事、スポーツイベント、祭典、祝日、さらにはオンライン上の流行に即応する。ロゴは、キャンペーンやローカル市場向け施策、あるいは特別な祝賀行事のために、数時間のうちに変更されることもある。このような柔軟性は商業的価値をもたらし得る。しかし同時に、それは慎重に管理されなければならない。
ブランドオーナーは、ロゴの変更はどこまで登録商標の権利範囲内といえるのか、変更後のロゴが登録商標と実質的に異なるものになるのはどの時点かを検討しなければならない。この問題はマーケティング上の訴求力だけではなく、法的保護、消費者認識およびブランド管理にも関わる問題である。

マレーシアでは、ブランドオーナーがバリエーションとなる商標を使用する場合、シリーズ商標(連続商標)の出願が有用となることがある。ただし、その前提として、各商標が重要な構成部分において相互に類似しており、色彩などの限定的な点においてのみ相違している必要がある。 
キャンペーン、商品ライン、デジタル・コンテンツなどで日常的に商標を変更する企業にとっては、こうしたバリエーションも商標戦略全体の一部として検討されるべきである。

学ぶべき価値のあるブランド事例
世界的に認知された「緑色のブランド」が、たとえ一時的であれ赤色を採用したという事実は、複数のレベルで機能しているからこそ印象的である。それは時宜を得ており、文化的背景とも関連し、特にサッカーファンにとっては即座に理解可能なものになる。
そして同時に、この事例は、色彩がブランド・コミュニケーションの一部としていかに強力な役割を果たし得るかを示している。

ブランドオーナーにとって得られる教訓は単純だ。キャンペーンは迅速に展開されるかもしれないが、商標戦略は後付けで考えるべきものではない。色彩、ロゴのバリエーションやキャンペーン用のブランド・アイデンティティがブランドにとって重要であるならば、それらは保護戦略全体の一部として検討されるべきである。色彩は単なる装飾ではない。適切な状況の下では、色彩自体がブランドの一部となり得るのからだ。

本文は こちら (When WhatsApp Turned Red: A Trademark Lesson in Colour)