2026-07-28

タイ:アンブッシュ・マーケティングの法的リスクと権利保護・防衛策 - Tilleke & Gibbins

アンブッシュ・マーケティングとは、公式スポンサー料を支払うことなく、スポーツ大会やコンサートなどのイベントとの関連性を印象付け、自社商品の販売促進を図るマーケティング手法をいう。

アンブッシュ・マーケティングは通常、以下のいずれかの形態をとる。
直接的アンブッシュ(Direct ambushing):公式の認可があるかのように誤認させるイベント名、ロゴ、マスコット等の無断使用
便乗型アンブッシュ(Coattail ambushing):イベントに関連するアスリートや放送局へのスポンサー行為

これらの法的評価は、マーケティング行為が、許容されるイベント関連広告の範囲にとどまるのか、それとも商標権侵害、パッシング・オフ(詐称通用)、消費者に対する欺瞞・誤認惹起、又は他人の営業上の信用(グッドウィル)の不当利用になるかという点に左右される。また、その法的リスクの評価は、個々の事案の具体的な事実関係に即して判断される。

タイにはアンブッシュ・マーケティングを包括的に規制する法律は存在しないが、1991年商標法は、登録商標と混同を生じさせるおそれのある類似標章を使用した広告・販促キャンペーンに対処するための主要な法的手段である。同法は、商標権者に対し登録した商品・役務について当該商標を独占的に使用する権利を与えており、公式スポンサーではない第三者がイベントの商標やこれと混同を生じさせるおそれのある標章を広告に使用した場合には、商標権侵害となるリスクが生じる。たとえそれが参照目的やパロディ使用であったとしても、それによってスポンサーシップや商業上の提携関係について公衆に誤認・混同を生じさせる場合には、法的責任を負う可能性がある。

また、商標法は未登録商標についてもパッシング・オフに基づく請求権を維持している。これは、イベント名、キャッチフレーズ、マスコット等がタイにおいて必ずしも商標登録されていない場合や、イベント開催時点までに関連するすべての商品・役務区分で商標登録がされていない場合があることから、実務上重要である。もっとも、商標登録が存在しない場合には、権利者は、当該標章の先行使用、周知性・名声、営業上の信用及び需要者が誤認・混同するおそれがあることを立証しなければならない。

消費者保護法も重要である。同法は虚偽や誤認を招く広告を禁止しており、「公式スポンサー」「公式パートナー」など事実に反する表示や、広告全体から公式な提携関係を想起させる表現は違法となり得る。一方、単にイベントの雰囲気を利用した広告については、スポンサー関係の誤認が認められない限り、直ちに違法とは評価されない場合もある。
さらに、2022年広告委員会通知は、消費者保護法に基づく広告委員会(Advertisement Committee)が制定したもので、近年の広告において「No.1」「最高」「唯一」「公式認定」「消費者が最も選ぶ」といった客観的事実であるかのような広告表現が増加していることを受け、広告主に対してそのような表示の裏付けを求めることを目的としたものだ。

実務上は、①イベント標章の無断使用、②スポンサー関係を暗示する広告、③最上級表現の使用、④アスリートとの提携広告、⑤会場周辺での販促活動が特にリスクの高い場面である。アスリート個人との契約自体は可能であるが、イベント主催者との公式関係を示唆してはならない。また、「公式スポンサーではない」とのディスクレーマーを表示しても、商標権侵害や誤認表示に係る法的責任が免れられるわけではない。

イベント主催者や公式スポンサーは、イベント名、ロゴ、マスコット、スローガン、ハッシュタグ等について早期に商標登録を行い、スポンサー契約では独占権の範囲や禁止事項を明確化するとともに、会場利用規約やチケット規約により無許可の商業活動を制限すべきである。他方、マーケターはキャンペーン開始前に法的調査を実施し、保護標章の使用、スポンサーシップの示唆、広告表現の裏付け資料の有無などを十分確認する必要がある。
このように、タイではアンブッシュ・マーケティングを直接禁止する法律は存在しないものの、商標法、民商法典上の不法行為、消費者保護法及び広告規制を組み合わせることで、法的責任が生じ得る。したがって、アンブッシュ・マーケティングの適法性は、商標の使用態様、スポンサー関係の誤認可能性、広告内容の真実性などを総合的に検討して判断すべきであり、権利者・広告主双方にとって事前のリスク管理が不可欠である。

全文は こちら (Ambush Marketing in Thailand: Legal Risks and Compliance)