インドでは、結合商標を登録してその一部の文字、色彩、図形等を根拠に商標権侵害訴訟を提起する問題が生じている。
1999年インド商標法第17条(商標の部分の登録の効果)第1項は、登録商標について、原則として商標全体としての使用の排他的権利を認める。一方、第17条第2項は、商標に、取引上普通に使用される事項、その他識別力を欠く事項、又は別個に登録されていない部分が含まれる場合、その部分について、商標全体の登録によって排他的権利が生じるものではない旨を定めている。したがって、結合商標として登録した後、その中の一般的・記述的な要素だけを切り出して独占することは、同条が本来防ごうとしているところである。
侵害について定める第29条では、被告商標との同一性又は欺瞞的類似性等が問題となる。第29条に基づく類否判断では、判例上、商標を全体として観察するという分離禁止の原則が基本となる。もっとも、デリー高裁は South India Beverages対General Mills事件において、「分離観察禁止」と「支配的要素」の原則は両立すると判示した。すなわち、商標全体を観察しつつも、より識別力が強く記憶に残る構成要素に重点を置くことは妨げられない。
この考え方は合理的である一方、権利者が共有・記述的な要素を「支配的要素」として主張する余地を生む。Cadila Healthcare対Cadila Pharmaceuticals事件では、「Falcigo」と「Falcitab」の類否について、最高裁判所が外観、称呼、構成等を考慮し、特に医薬品については混同が健康被害につながり得ることから慎重な判断を求めた。ただし、同判決が示した外観・称呼等に基づく類否判断の手法は、その後の紛争において、特定の語幹や音節に着目した類似性の主張を補強するために援用される可能性はある。
これに対し、S.B.L. Ltd.対Himalaya Drug Co.(AIR 1998 Delhi 126)事件は、結合商標の構成要素について独占権を主張することへの警告となる。同事件では「Liv.52」と「LIV-T」が問題となり、「LIV」は「Liver(肝臓)」を意味する記述的な要素であり、肝臓用製剤についてパブリックドメインに属するものと判断された。登録された結合商標に含まれているというだけで、記述的な部分について独占権を取得できるわけではないことが示されたのである。
もっとも、インドの裁判例では、結合商標を全体として評価するのか、特定の「支配的要素」に重点を置くのかによって、結論が異なる場合がある。ここで重要なのは、登録時と訴訟時の主張を切り離さないことである。登録時には当該要素について独占を主張していなかった権利者が、後になって同じ要素を「支配的要素」として独占的に主張することを無制限に認めれば、第17条第2項の趣旨が空洞化しかねない。こうした主張を無制限に許容することは、商標登録制度の整合性の観点からも慎重でなくてはならない。
全文は こちら (Registering the Whole, Suing the Part: The Composite-Mark Paradox in Indian Trademark)
