『商標法』第44条第1項の「その他の不正な手段」の適用及びその展望(要約)
1. はじめに・背景
中国では年間数百万件に上る商標登録出願が行われる一方、悪意の先取り出願や商標の買い占め、区分を超えた類似商標登録などの不正行為が多発している。中国政府および司法機関は、商標登録制度を使用本来の目的に回帰させ、公平な市場環境を維持するため取締りを強化してきた。その中で、現行『商標法』第44条第1項に規定される「その他の不正な手段により登録を得た」との条項は、絶対的無効理由として(5年の期間制限なく)悪意の出願を規制する強力な法的手段として機能している。
2. 法的根拠と適用要件
現行『商標法』第44条第1項は、欺瞞的手段や「その他の不正な手段」による商標登録の無効宣告を規定している。司法解釈および北京市高等裁判所の審理ガイドライン等によれば、本条項の適用要件は以下の通り整理される。
保護対象と目的:特定主体の民事権益の保護ではなく、商標登録管理秩序の維持および社会公共利益の保護を目的とする(特定主体の利益侵害のみの場合は相対的理由等を適用)。
中核的判断基準:先行商標の知名度や混同可能性ではなく、出願人の主観的悪意および行為が商標登録秩序に及ぼす害悪性。一般商標の非類似商品への模倣を阻止できるのは、排他的私権の付与ではなく、公序良俗維持に伴う「客観的な付随効果」である。
適用要件:①出願人(および意思連絡のある関係者)、②商標登録秩序の混乱・公共利益の侵害・公共資源の不正占有、③特定民事権益のみの侵害にとどまらないこと。
3. 裁判基準の変遷と実務上の課題
(1) 商標出願件数に対する判断基準(「数字至上主義」からの脱却)
かつては出願件数の多さのみで直ちに不正と認定する傾向上が見られ、安定した商標権を過度に脅かす弊害が生じていた。しかし、近年の最高裁判所判決(「招財猫」事件等)では、単なる件数のみで即断せず、企業の生産経営上の実情、実際の使用意図、正当な需要が存在するか否かを総合的に考慮する方針が示されている。実情に応じた正当な事業目的や防衛出願であれば適法と評価される一方、件数が少なくても悪意が明確であれば不正と認定される(「SK-II」事件、F商標事件)。
(2) 善意の商標譲受人への影響と利害調整
従来は「毒樹の果実」論に基づき、出願時の悪意は譲渡によって消滅せず、譲受人が善意であっても登録は一律無効とされてきた(「雨花石」事件、「Beaba」事件)。しかし、善意の譲受人が多大な投資を行い、市場で安定した出所識別機能を形成した後に一律無効とすることは、既存の市場秩序や信頼保護の観点から問題視されている。
最近の判決(「華凌」事件、「曙光」事件、「椰果世家」事件)では、譲渡の目的、譲受人の真実の使用意図、譲渡後の継続使用実績などを積極的に評価し、悪意出願由来であっても現在の市場秩序や私権の属性を尊重して登録維持を認める新たな判断ロジックが示されている。
4. 新『商標法』(2027年1月施行予定)における展望
2026年6月に可決された新『商標法』(2027年1月1日施行)では、本条項は第19条へ移され、「使用を目的としない出願」規定と統合される。
適用対象の拡大:従来の「登録済みの商標」限定から、「出願中の商標」へと拡大された。
全過程での一体適用:出願審査、異議申立、拒絶査定不服審判、無効宣告に至る権利付与・権利確定の全過程において、悪意の出願を「正当な根拠をもって」一貫して規制することが可能となる。
新法の施行により、悪意の買い占めや先取り出願への規制効果が一段と高まることが期待される。司法実務においては、悪意の厳格な規制と市場主体の合法的権益・行政上の信頼保護との双方を考慮した「利益衡量の理念」に基づき、個別の適正な判断を下すことが求められている。
