英国知的所有権庁(UKIPO)が発表した最新の「Trading Standards Survey Report(取引基準局調査レポート)」は、各自治体の取引基準局(Trading Standards)における商標権など知的財産権(IP)侵害の取締実態と最新の犯罪動向を浮き彫りにしている。本調査は英国全土の自治体から得られた回答に基づくもので、商標権者やIP法務実務家にとって今後の権利行使・ブランド保護戦略上、極めて重要な示唆を含んでいる。
1. 侵害調査の対象品目:アパレル・たばこが最多、玩具が急増
商品分野別では、例年通り「たばこ」および「衣料品」が商標侵害(模倣品)の調査対象として最も大きな割合を占めた。次いで「香水」「靴」「電子タバコ」「時計・ジュエリー」が続いた。
特筆すべき点として、今回の報告では危険な模倣玩具に関する調査が急増したと報告された(回答自治体の約67%が調査を実施)。UKIPOによる消費者啓発キャンペーン「Fake Toys, Real Harms(偽物の玩具、本物の危害)」や話題のキャラクターグッズを巡る模倣品流布に伴い、規制当局の取り締まりの優先順位が高まったことが要因とされている。
2. 侵害品流通ルート:実店舗とSNSの「ハイブリッド化」
侵害品が取引・検出された場所としては、実店舗が依然として最多を占める一方、ソーシャルメディア上のオンライン取引や、フリーマーケット等の露店、ウェブサイトでの流通が引き続き上位を占めた。
特に近年は、貸倉庫施設を店舗の「裏在庫」や模倣品の密輸・物流・在庫の保管拠点として悪用するケースが増加しており、UKIPOが推進する業界連携協定「Tick Box Scheme(Tick Box: Keep it Real, Keep it Legal、貸倉庫・トランクルーム業界が偽造品や違法商品の保管場所として悪用されるのを防ぐために、英国で導入された自主行動規範および官民連携イニシアチブ)」などを通じた拠点レベルでの取締強化が進んでいる。
3. 組織犯罪・刑事法との結びつきの強まり
実務上最も重要なポイントは、単なる商標権侵害にとどまらず、組織犯罪グループとの関連性が急増している点だ(回答自治体の64%が関連を指摘)。商標権侵害行為は、マネーロンダリング、人身売買・現代の奴隷制、毒劇物・薬物密売といった深刻な刑事犯罪の資金源となっている実態が報告されている。
4. 法律家・ブランドオーナーへの実務的対策
(1) 官民連携の活用
取引基準局は行政取締権限および刑事捜査権限を有しており、犯罪収益移転防止法に基づく財産没収などの強力な手段を行使できる。また、民事上の差止請求のみならず、各地域の取引基準局やUKIPOのIPコーディネーターとの積極的な情報共有が有効である。
(2) 製品安全・刑事アプローチの併用
玩具や電化製品、化粧品などの商標権侵害では、侵害行為に加えて「製品安全基準違反(消費者リスク)」を訴求することで、当局の迅速な介入(押収・摘発)を引き出しやすくなる。
(3) オンライン&サプライチェーン双方の監視
SNS上のアカウント監視と併せ、国内の流通拠点(倉庫・実店舗)の追跡を一体的に行うクロスプラットフォーム型のブランド保護施策が求められている。
