スニーカーの側面に大きく表示された「N」の文字は、1970年代以降、ニューバランス(New Balance)と強く結び付けられてきた。米国マサチューセッツ州ボストンに本社を置くスポーツシューズメーカーのニューバランスは、フランスのスポーツ用品会社のデカトロン(Decathlon)がランニングシューズブランド「Kiprun」のロゴによって、自社の領域に踏み込みすぎたと考えた。
2026年9月15日、ニューバランスは、商標権侵害を理由としてデカトロンを相手取り、マサチューセッツ州連邦裁判所に訴訟を提起した。
争点となったのは、「Kiprun」の靴の左右に用いられるデザインの一方には図案化した「K」に見える一方、反転した側はニューバランスの著名な「N」と実質的に同一であり、そのため、消費者が「Kiprun」のシューズをニューバランス製品であると誤認したり、両ブランドの間に何らかの商業的なつながりがあると考えたりするおそれがあると主張している。
ニューバランスは、その根拠の一つとして、両者の類似性に気付いた消費者によるソーシャルメディア上のコメントを挙げている。
裁判所は、ランニングシューズ上で実際に使用されている態様が、混同を生じさせるおそれがあるかどうかを評価しなければならない。類似性を指摘するソーシャルメディアへの投稿があるだけでは、証拠としてかなり不十分であるように思われる。混同に関する市場調査や、実際に混同が生じた事例があれば、確かに有力な証拠となるだろう。
もっとも、ニューバランスが長年にわたりシューズ上で「N」の文字を使用してきたという事実は、判断に影響を及ぼす可能性はある。ニューバランスが、集中的な使用によって自社商標の識別力が高まったことを立証できれば、その商標の保護範囲も広くなり、商標権侵害が認定されやすくなる。
本件について疑問に思うのは、デカトロンの法務部門も最終的なシューズのデザインを確認したのだろうか、という点である。法務部門が「K」の文字について調査し、使用可能であると判断したことは疑いないだろう。しかし、その文字を左右反転させるというアイデアは、デザイン部門にとっては巧妙な工夫だったのかもしれないが、法務部門にとっては、歓迎できない不意打ちとなったのかもしれない、と思うのは考え過ぎだろうか。
