(令和5年1月19日 知財高裁令和4年(行ケ)第10073号 「zhiyun」事件)
事案の概要 原告(被請求人)は、指定商品 9類「スマートフォン用スタビライザー、コンピュータ用スタビライザー、携帯電話用スタビライザー、カメラ用スタビライザー、液晶ディスプレイ用スタビライザー、ビデオカメラ用スタビライザー」に係る本件商標「zhiyun」(登録第6256358号)の商標権者である。被告(審判請求人)は、本件商標の登録無効審判(2021-890051)の請求をした処、 特許庁は成立審決をしたため、原告が知財高裁に対し、審決の取消しを求める本件訴訟を提起した事案で、無効理由は商標法3条1項柱書き及び4条1項7号の違反である。
判 旨 原告は、先願主義に名を借りて、先行して使用されてきた他人の商標と類似する商標を出願した上、金銭的利益を得ることを業とする者と認めざるを得ない。また、本件商標についても、日本語とも英語とも考えられない造語であり、およそ原告が独自に考え出したものとは認められないもので、原告は、被告が海外において、引用商標を付したスタビライザーやジンバル雲台で相当の販売実績を有していることを知りながら、これらの商品と同じ商品を指定商品として、我が国で先に商標登録を得ることで、金銭的利益を得ようとしていたものと推認し得るものである。このような本件商標の登録出願に至る経緯等に照らせば、登録を認めることは、商標法の予定する公正な取引秩序に著しく反するものというべきであるから、本件商標の登録は、公序良俗に反するものというほかない。
コメント 本件事案で知財高裁は、原告の過去の商標出願・登録状況等から、登録を認めることは、商標法の予定する公正な取引秩序に著しく反するとして、本件商標の登録は4条1項7号に該当するとして、審決を支持したものである。
その前提として、原告は、直前の数年間に多数の登録出願をし、平成30年から令和元年にかけては109件にも及んでいること、指定商品・役務も、広範囲に及び一貫性がなく、原告の事業内容と無関係なものも多いこと、そして、これらの商標のうち22件については登録後1、2年で移転されていることを認定している。加えて、本件商標「zhiyun」は、特異な造語からなる被告使用の先行商標であった。
そうとすれば、他人の先行使用商標を剽窃的に登録し、譲渡のみを目的のものとの推認は現実的で、4条1項7号違反との結論は妥当である。更に、審決においては、本件商標は査定時又は審決時に原告が現に自己の業務に係る商品に使用をしている商標に当たらない上、原告に将来自己の業務に係る商品に使用する意思があったとも認め難いとして、3条1項柱書違反も認定、判断している。適切な判断である。いわゆる商標ブローカー登録に4条1項7号違反が認められた初めての裁判例と思われる。3条1項柱書き違反も有効である。