2024-04-01

工藤莞司の注目裁判:審決取消訴訟で成立審決の商標法4条1項10号及び同7号双方の無効理由が支持された事例

(令和6年2月5日 知財高裁令和5年(行ケ)第10050号 「美容医局事件」)

 事案の概要 本件は、原告(被請求人・商標権者)の有する登録第6401321号商標について、被告(請求人)は、商標法4条1項10号及び同7号に該当すると主張して、無効審判(2021-890054)の請求をした処、特許庁は成立審決をしたため、原告は。知財高裁に対し、審決の取消訴訟を提起した事案である。本件商標は「美容医局(標準文字)」 、 指定役務 35類「広告業、トレーディングスタンプの発行、経営の診断又は経営に関する助言、事業の管理、市場調査又は分析、商品の販売に関する情報の提供、・・・」で、引用商標は、「美容外科・美容皮膚科専門の有料職業紹介事業の提供」に使用する「美容医局」他である。

 判 旨 前記・・・を総合すると、本件サービス(美容外科・美容皮膚科専門の有料職業紹介事業)は、遅くとも令和2年頃までには、美容外科及び美容皮膚科に転職しようとする医師並びに医師を求める美容外科及び美容皮膚科の医療施設にとって多く利用されているサービスとなっていたということができ、本件サービスを表すものとして使用の引用商標は、本件商標の出願時令和2年7月31日及び登録査定時令和3年6月2日において、本件サービスを表すものとして、その需要者美容外科医、美容皮膚科医及びその医療施設関係者の間で広く認識されていたと認めるのが相当である。そうすると、本件審決の引用商標の周知性に係る判断に誤りはないから、原告の主張の商標法4条1項10号該当性に係る判断の誤りをいう部分には理由がない。

 原告は、本件サービスが周知であることや、被告が本件サービスに引用商標を使用しており、引用商標が本件サービスを表すものとして周知であることを知りながら、それが未登録であったことを奇貨として、本件商標の登録出願をしたことが明らかである。そうすると、原告は、真摯に本件商標を使用した事業を行うためではなく、被告に対する妨害又は自ら不当な利益を得る目的で本件商標の登録出願をしたものと認めるほかはない。したがって、本件商標登録は、その出願経過に照らし、著しく社会的妥当性を欠くものである。本件商標登録が商標法4条1項10号により無効であるとしても、そのことは、本件商標が同7号に該当する場合に、同法46条1項1号の規定を適用して、本件商標登録が全体として無効であると解することは妨げられない。

 コメント 本件判決は、知財高裁が商標法4条1項10号違反とともに、7号違反とも判断した珍しい判決である。審決を維持するには一の理由で審決理由を支持すれば足りようが、この点忖度するに、10号違反のみでは、広範な本件指定役務の一部のみの無効であるのに対し、他方、7号違反では、指定役務全般について登録無効で意義があり、審決と同様である。判決理由中に、「原告は、本訴係属中の令和5年10月3日、被告に対し、本件商標のライセ ンス料として売上の7%、譲渡代金として3億円とする和解条件を提示した。(乙29)」との下りがある。なお、周知商標については、相手方に不正の目的があれば、指定役務全般に適用される4条1項19号違反も考えられる。